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4. 猛獣大脱走 と、ここまでが罪のないヨタ話。しかし、これからの話はちょっと頂けない。
「死者はすでに49人。そのうち身元が判明したのは27人だけである。残りはメチャメチャで、人であるのかも判別できない。運よく食べられることを免れた者でも、手足をもぎ取られたり、腸がはみ出したりと、現場は凄惨を極めている。夜明けと共に犠牲者の数が増えることは必至である。12頭の肉食獣(トラ、ヒョウ、ライオン等)は依然捕獲されておらず、潜んでいる場所も不明のままである」。 これを読んで呑気に出歩く者はいない。市民は家に閉じこもり、死に物狂いで窓に板を打ちつけた。トンテンカーン。トンテンカーン。もちろん、すべての家からこの音が聞こえたわけではなかった。聞こえてきたのは《ニューヨーク・ヘラルド》を読んでいる家からだけだった。 |
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始末の悪いことに、他の新聞社もこの記事を信じてしまった。《ニューヨーク・タイムズ》の編集長は馬を走らせ警察本署に怒鳴り込んだ。 このインチキ記事の仕掛人は《ヘラルド》の編集長、トーマス・コネリーだった。彼は以前、猛獣の檻の管理が不行届きだと動物園を非難したことがあった。しかし、動物園側は一向に腰を上げる気配がない。そこで業を煮やした彼はこの「特別記事」をでっち上げた。 「もちろん、以上の記事はすべてフィクションである。しかし、動物園がしかるべき予防措置を講じない限り、いつでも起こりうる事態である」。 右のコメントが記事の最後に添えられていた。しかし、そんな所まで読む者はいない。大衆は怒り狂ったが、コネリーは意外にも編集長の地位に留まった。何故か。彼の御陰で《ヘラルド》の売り上げが五千部ばかり増えたからである。 |
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