ソウニー・ビーン
Sawney Bean (スコットランド)



ソウニー・ビーンの洞窟

 15世紀初頭、ジェイムス1世が統治するスコットランドの南西端、ギャロウェイ地方は恐怖に見舞われていた。旅人が次々と失踪するのだ。その数たるや半端ではなく、事態を憂慮したジェイムス1世は調査団を派遣した。
 野蛮な時代のことである。調査団のしたことは、行方不明の旅人が泊まった宿屋の主人たちを片っ端から処刑するというものだった。おかげでこの地域一帯の人口が減少したが、それでも旅人の失踪は相変わらずだった。

 或る日のこと、村祭りから帰る夫婦を、野蛮人と呼ぶにふさわしいワイルドな連中が取り囲んだ。彼らは妻を馬から引きずり下ろし、ナイフで喉を切り裂いて鮮血をすすった。そして、腹を引き裂くとはらわたを引きずり出したのであった…って本当かよ?
 どの参考文献にも書いてあるんだから仕方がないよな。
 夫が必死に応戦しているところに自警団が駆けつけたので、連中は一目散に逃げ出した。かくして四半世紀に渡って非道の限りを尽くして来た一味の存在が明らかになった。


 報告を受けたジェイムス1世は、自らが四百の軍勢を率いてギャロウェイに出向いた。連中が逃げた方向に進むと海岸に出た。猟犬は洞窟に向かって吠え始めた。中から異臭が漂ってくる。踏み込んだ兵士たちが見たものは、天井からぶら下がる人間の部品の数々だった。

 軍勢に追いつめられた一味はたちまち制圧された。その内訳は、息子8人、娘6人、孫息子18人、孫娘14人、これにおとんとおかんを加えた総勢48名の大家族だった。
 おとんはソウニー・ビーンという名の、エジンバラ近郊生まれのプー太郎である。女と駆け落ちしてこの洞窟に住み着き、以後25年に渡って追い剥ぎをして暮らしていた。彼らにとって人肉は主食だった。天井からぶら下がっていたのは保存食だったのである。
「この者どもは人類のあからさまな敵なり。されば裁判の必要はなしと判断せられたる」
 男たちは四肢を斧で叩き切られ、死ぬまで放置された。女たちはこれを見せつけられた後、生きたまま火あぶりにされた。
「この者どもすべて、いささかの改悛の情を示すことなく死に絶えたり。命尽くる最後の瞬間に至るまで、世にも恐ろしげなる呪いの言を吐き続けたり」

 以上の物語は、ジョン・ニコルソンの著作『Historical and Traditional Tales Connected with the South of Scotland』(1843)がベースになっている。ソウニー・ビーンに関してはこれ以外に史料がなく、したがって伝説ととらえる向きが多い。しかし、その記述はかなり詳細であり、コリン・ウィルソンあたりは実話だと考えている。部分的にかなりの誇張が感じられるが、元になった事件は実在したと考えてもよいだろう。


参考文献

『殺人百科』コリン・ウィルソン(彌生書房)
『犯罪コレクション(下)』コリン・ウィルソン著(青土社)
『カニバリズム』ブライアン・マリナー著(青弓社)
『世界犯罪百科全書』オリヴァー・サイリャックス著(原書房)


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