ドクター・モリス・ボルバー
Dr. Morris Bolber (アメリカ)



ドクター・モリス・ボルバー

 映画評論家にゲイが多いのと同じように、医師や看護士には殺人者が多い。
 などと書いてしまったが、何が「同じように」なのかさっぱり判らない。判らないが、とにかく、医療に従事する者には殺人の誘惑が常につきまとう。
 まず、人の生き死にを簡単に左右出来る立場にある。
 そして、それを誤魔化すことの出来る立場にもある。
 加えて強欲となれば、後はもうひと押しだ。倫理感の敷き居を跨げば、そこはもう殺人ワールドである。
 本件の主人公、ボルバー先生も跨いでしまった一人である。『ドクター・モリスの島』とかいう怪獣映画があったような気がするが、それとこれとは関係がない。ボルバー先生が夢中になったのは、怪獣の生産ではなく保険金殺人である。

 時は大恐慌の真っ只中にあった。フィラデルフィアの開業医、モリス・ボルバーは金欠病に喘いでいた。患者の殆どが貧しいイタリア移民である。銭っこ持って来いっちゅうねん。ワシゃボランティアで医者やってるんとちゃうで。患者に金がないのなら取れるところから取りましょうと、いとこのポール・ペトリロと共謀して、こんなことを企てた。
 まず、ペトリロが患者の細君を誘惑する。そして、共犯に巻き込み、夫に生命保険をかけさせる。酔って帰って来た夫を、素っ裸にして窓が全開のまま寝かしつける。寒い寒い真冬のことである。肺炎で死ぬのは時間の問題だ。死亡診断書を書くのはボルバー先生である。雑貨屋のトニーはこの策略であの世行き。まんまと1万ドルの保険金をせしめ、3人で山分けした。

 味をしめたボルバー先生は、もう1人のいとこ、ハーマン・ペトリロを一味に加えて、事業拡大に乗り出した。
 10人ほど殺したところで、強力な助っ人が仲間に加わる。3人の夫を毒殺し、地元では「魔女」と恐れられる信仰療法師、カリノ・ファヴァトである…と書いていて、何だかマンネリになってきたので新たな強力メンバーを加えてテコ入れする子供番組のプロデューサーみたいな心境になってきたが、本当のことなのだから仕方がない。この「魔女」の助言と伝手で更に事業は拡大し、一味は大いに潤った。

 かくして、5年ほどの間に30人を殺害。そろそろ視聴率が落ちてきたところで、役者のハーマンが不祥事を起こす。保険金殺人の旨味を不用意に自慢したことからタレこまれ、プロデューサーは始末書、番組は打ち切り。
 あれ? 違った。
 とにかく一味は逮捕された。ポールとハーマンは電気椅子送りとなったが、ボルバー先生と魔女は終身刑に留まった。いつだって責任を取らされるのは現場なのだ。


参考文献

『連続殺人紳士録』ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)
『殺人紳士録』J・H・H・ゴート&ロビン・オーデル著(中央アート出版社)


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