レオン・ブーヴィエ
Leone Bouvier (フランス)


 

 今回はあまりにも悲惨な恋の物語である。

 レオン・ブーヴィエの生涯は悲惨そのものだった。父親はアル中、母親も同様の大酒飲みで、虐待されながら育った。それでも気立ての優しい娘に成長したが、満足な教育を受けていないためにオツムが弱く、村の若者たちの格好の餌食にされてしまった。いわゆる「公衆便所」というやつである。
 学校を卒業すると工場に働きに出たレオンは、やがて運命の男と出会う。自動車修理工のエミール・クレネー(22)である。ダンスホールで知り合った2人は、翌日の午後にデートの約束を交わす。ところが、エミールは約束の場所には現れなかった。
 6ケ月後、2人はカーニバルで偶然に再会する。
「6ケ月も遅れやがって」
 エミールが戯けて云った。
「まあいいや。こうしてまた会えたんだから」
 その日、2人は場末の安ホテルで結ばれた。彼女の生涯の中で最も幸せなひとときだった。

 2人は日曜になるとバイクでダンスホールに出掛け、その後は安ホテルというお決まりのデートを繰り返した。やがて結婚を語り合うようになり、レオンはエミールの両親にも紹介されて優しく迎えられた。なにもかもが好転しているかに思われた。ところが、レオンが生まれながらに背負った不幸が次第に忍び寄る。
 始まりはバイクの事故だった。頭を打った彼女はそれ以来、頭痛と憂鬱に悩まされるようになる。エミールはそんな彼女を疎ましく思い始める。そして、妊娠。エミールの指示で堕胎したが、レオンの憂鬱はますます酷くなって行った。

 1952年1月、堕胎のための無断欠勤を理由に彼女は工場を解雇される。これをなじる母親。
「あんたがクビになったら家計はどうなるのよ!」
「おかあさんが働けばいいでしょ!」
 アル中の父親にボコボコに殴られたレオンは、泣きながら一晩中自転車を漕ぎ
、エミールが勤める工場へと向った。ところが、エミールは無関心。へえ、大変だねえ。だけど俺も忙しいのよ、と手を休めてくれない。行く場所がなく金もない彼女は路上で数日過ごした後、已むを得ずに街角に立った。そして、春を売って得た金で拳銃を購入した。自殺するためなのか、それともエミールを殺すためなのか、それは彼女にもよく判らなかった。

 レオンはエミールをデートに誘い出すことに成功した。場所は1年前に2人が出会ったカーニバルだ。ところが、エミールはこう切り出した。
「北アフリカに働きに出るつもりだ。もう帰って来ない」
「じゃあ、私たちの結婚はどうなるの?」
 エミールは肩をすくめて、
「誰か他の人を見つけてくれよ」
 しばし沈黙。
「判ったわ。お別れにもう一度キスして」
 二つの影が一つになった時、レオンは22口径をエミールの首に押しつけ、そのまま引き金を引いた。

「彼を愛していました」
 しかし、法廷は彼女に冷たかった。修道院にいる妹、ジョルジェットの弁護も
、むしろ横道にそれたレオンの素行の悪さを強調する結果となった。謀殺罪の適用は免れたが、故殺罪で有罪となった彼女は、終身刑に処された。
 なんともやりきれない事件である。


参考文献

『殺人紳士録』J・H・H・ゴート&ロビン・オーデル著(中央アート出版社)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)
『LADY KILLERS』JOYCE ROBINS(CHANCELLOR PRESS)


counter

BACK