リチャード・ブリンクリー
Richard Brinkley (イギリス)


 

 間抜けなヤツはー誰なのさー
 それはおいらさブリンクリー

 などと勝手に即興で歌ってしまったが、思わず歌ってしまうほどに間抜けな殺人事件である。

 大工のリチャード・ブリンクリーはひょんなことからロンドンに住む77歳の未亡人ジョハンナ・ブルームと懇意になった。かなりの資産家である。欲に眼が眩んだ彼は、いっちょ丸ごとネコババしてやろうと思い立つ。
 障碍になるのは同居する孫娘だ。しかし、幸いなことに夫人と孫娘は仲がよくない。そこで一切合財をブリンクリーに遺贈する旨の遺言書を偽造することにした。遺言書の肝心の部分を折り畳んで読めなくした上で、
「ご町内の大山詣りのための署名を集めてるんっすよ」
 などと夫人を騙して署名させたのである。同じ手口でレジナルド・パーカーとヘンリー・ハードの両名の証人としての署名も手に入れた。後は夫人が逝くのを待つだけだった。

 まもなく夫人はポックリと逝く。これが自然死であることは間違いないようだ。早速ブリンクリーは遺言書を持ち出し、故人の屋敷の所有権を主張した。もちろん孫娘は黙っていない。弁護士を立てて、遺言状が真正であることを証明せよとブリンクリーに迫った。
 さて、そうなると問題なのは証人である。彼らが法廷で証言すれば計画はオジャンだ。否。それどころか偽造の罪でお縄になっちまう。浅はかなブリンクリーは、あろうことか、証人たちに死んでもらうことにした。

 まずはパーカーだ。青酸入りの黒ビールを持参したブリンクリーは、
「お宅の犬を分けてくださいよ」
 とパーカーの長家を訪れた。
「うちの犬は安くないよ」
「そんなこと云わないでさあ。こうして手みやげも持参してるんで、お安くお願いしますよ」
「お、いいねえ。それじゃ、商談が成立したら乾杯しよう」
「へへ、そうしやしょう」
「で、どの犬が欲しいんだい?」
 と2人は庭に出て行く。件の黒ビールはテーブルの上だ。そこに間の悪いことに大家のベック夫妻とその娘が顔を出した。
「よお、いるかい?」
「あら、いないわ」
「なんだい、どこ行っちまったんだい。一緒に一杯やろうと思ってたのに」
「お前さん、テーブルの上に黒ビールがあるわよ」
「おっ、やっこさんも一杯やるつもりだったんだな」
「すぐに帰ってくるわ。先にやってましょうよ」
「そうだな。後でうちから持ってくればいいんだから」
 と青酸入りの黒ビールを親子3人ゴクゴクゴクとさも旨そうに飲み干した。
 デデーン(効果音)。
 夫妻は即死。娘も3日間生死をさまよう重体に陥った。商談成立の乾杯を楽しみに戻って来た2人は、その場に呆然と立ち尽くした。

 お縄になったブリンクリーは1907年8月14日に絞首刑に処された。何も得られなかったばかりか、関係ない人々を巻き添えにし、己れの命までも失うハメになったブリンクリーほど間抜けな野郎はそうは居まい。


参考文献

『殺人紳士録』J・H・H・ゴート&ロビン・オーデル著(中央アート出版社)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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