ウィリアム・コーダー
William Corder
a.k.a. The Red Barn Murder (イギリス)



「赤い納屋」で遺体発見

 被害者の母親が見た正夢によって解決した事件として知られる。芝居として上演されて英国中で人気を博したという。英国人なら誰もが知っている古典的な殺人事件である。

 イングランド東部サフォーク州ポルステッドに暮らす小作人の娘、マリア・マーティンは村一番のべっぴんさん。これに手をつけたのが4歳年下の地主のどら息子、ウィリアム・コーダーである。やがてマリアは妊娠し、コーダーは渋々ながらも結婚に同意。ところが、子供は生まれて間もなく死んでしまう。2人の関係は険悪になっていく。
 1827年5月半ば、結婚結婚と五月蝿いマリアの殺害を既に決意していたコーダーは、彼女をこのように騙して連れ出した。

「僕たちは私生児を産んだから逮捕されるかも知れない。だから内緒で結婚式を挙げよう。うちに赤い屋根の納屋があるのは知ってるね? あそこに馬を用意しておくから、男装してこっそりと来ておくれ。その馬に乗って隣町のイプスウィッチで式を挙げよう。いいかい。誰にも話しちゃ駄目だよ」

 まんまと騙されたマリアは、しかし両親にだけは打ち明けて「赤い納屋」へと向った。そして、2度と姿を現すことはなかった。2日後、コーダーだけがひょっこりと帰って来たので、マリアの両親は詰め寄った。
「娘はどうしたんだ?」
 ちくしょう、あのアマ。しゃべりやがって。
「いや、結婚の許可がなかなか降りないので、彼女はイプスウィッチで待機してるんですよ」
 その後、話は一転し、今度はロンドンで結婚式を挙げるという。3週間後にはこんな便りがマリアの親元に届く。
「私たちは無事に結婚し、ただいまワイト島で新居を構えています」
 それっきり何の音沙汰もない。何だかこれはおかしいぞと思い始めた矢先、マリアの母親が夢を見る。娘が殺されて「赤い納屋」の床下に埋められている夢だ。これは正夢に違いない。母親は再三に渡って捜索を依頼したが、根拠が夢では警察もなかなか動けない。ようやく重い腰を上げたのは翌1828年4月になってからだ。そして、夢の通りに遺体を発見。びっくり仰天した次第である。

 逮捕されたコーダーは、ロンドンで別の女とちゃっかり結婚していた。さすがどら息子。マリアは自殺だったと弁明したが陪審員は聞く耳を持たず、絞首刑に処された。


参考文献

『殺人紳士録』J・H・H・ゴート&ロビン・オーデル著(中央アート出版社)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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