ジョン・リンレー・フレイジャー
John Linley Frazier (アメリカ)



ジョン・リンレー・フレイジャー

 1970年10月19日夕刻、カリフォルニア州サンタクルスで、日系の眼科医ヴィクター・オータの邸宅が燃え上がった。駆けつけた消防隊は、プールの中で5つの遺体を発見した。主人のヴィクターと夫人のヴァージニア、息子である12歳のデリックと11歳のタガート、そして秘書のドロシー・カドワラダーである。ヴィクターは3発の銃弾を、他の4人は後頭部を1発撃たれていた。
 表に停めてある車のフロントガラスには、以下のような犯行声明文が挟まれていた。

「ハロウィン…1970年。
 本日、自由なる宇宙の人民による第三次世界大戦が始まる。本日以降、自然環境を破壊する者は、個人であろうと団体であろうと、自由なる宇宙の人民により死の制裁を受けるだろう。
 私と同志たちは、この惑星上の自然を擁護せぬ全ての者に対して、命を賭けて戦う。物質主義に死を。さもなくば、人類に死を。
 ワンドの騎士、カップの騎士、ペンタクルの騎士、ソードの騎士」

 最後の署名の意味が私にはよく判らないが、タロットカードにこういうのがあるらしい。また「自由なる宇宙の人民(the people of the free universe)」の部分もよく判らない。宗教団体の名称とも取れる。チャールズ・マンソンの事件があったばかりのことである。やれやれ、またカルト殺人かと警察は頭を抱えた。
 やがてオータ夫人の車が、付近を走る鉄道のトンネルの中で発見された。貨物列車がこれに衝突したが、徐行していたために大事には至らなかった。しかし、ホシは明らかに大事故を企んでそこに放置したのである。早くこのキチガイを挙げなければならない。警察は周辺にたむろするヒッピーたちを中心に捜査を始めた。

 現場検証により、どうやら単独犯であることが判明した。そして、数々の聞き込みにより、ジョン・フレイジャーという24歳の自動車修理工が容疑者として浮上した。当時流行のカウンター・カルチャーにどっぷりとはまったフレイジャーは、妻と別れてヒッピー村に住み着いた。ここでタロットカードを覚え、環境保護に関する本を読み、物質主義に激しい憎悪を抱くようになった。そして、メスカリン漬けでクルクルパーになった頭で考えた。
「あそこに住むオータとかいうやつは、あんなにでっかい家を建てやがって、自然を破壊しておる。おのれ、天誅を下しちゃる」
 これが殺人の動機である。早い話が、嫉妬が動機だったのである。

 法廷に現れたフレイジャーは、顔半分をツルツルに剃った面妖なる容貌で関係者を大いにビビらせたが、陪審員は「キチガイのふりをしてるだけ」と一蹴した。そして、死刑を宣告されたわけだが、1972年にカリフォルニア州で死刑が廃止されてしまったために、サンクエンティン刑務所に収監されたままでいる。


参考文献

『現代殺人百科』コリン・ウィルソン著(青土社)


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