リジー・ヒューズ
Lizzie Hughes (アメリカ)


 

 学生時代に「食人文学」ばかり集めていたことがある。例えば、ローラン・トポールの『スイスにて』とか、スタンリー・エリンの『特別料理』とか、江戸川乱歩の『闇に蠢く』とか。その切っ掛けとなったのが中野美代子氏のカニバリズム論』だ。そこで紹介される様々な事件や文学の中でもひときわ印象に残るのが『韓非子』の一節である。

「易牙、君の為に味を主どる。君の未だかつて食わざる所はただ人肉のみ。易牙その首子を蒸して之を進む」

 君主のために我が子を蒸して献じた料理長がいたことにただ驚かされるが、これとよく似た事件がマーティン・ファイドー著『世界犯罪クロニクル』に紹介されている。1891年の事件であり、おそらく当時の新聞記事をそのまま引用したのだろう。

 ジョージア州ワシントンでは、黒人が出世して故郷に錦を飾ると、地元でその栄誉を讃えるのが慣例になっていた。その者が帰郷すると、アフロ・アメリカンの上流階級の一員として盛大な宴を催して迎え入れるのだ。仕出し屋のリジー・ヒューズ夫人はその宴の注文を受けた。
 宴の食事は素晴らしかった。出された唯一の肉は極めて白く、脂肪が少なくて身が締まっている。子牛のような味がした。会食者たちはヒューズ夫人に礼を云い、何の肉だか訊ねた。すると、横から夫人の幼い娘が口を出した。
「お姉さんよ」
 幼い娘はその日の午後、母親が姉を殺して解体し、調理する一部始終を見ていたのだ。医者は食べ尽くされた骨が人間のものであることを確認した。警察が現場に急行したおかげで、ヒューズ夫人はリンチに遭うことを免れた。

 その後、ヒューズ夫人がどうなったのかは記載されていない。


参考文献

『カニバリズム論』中野美代子著(福武書店)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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