ジャック・ザ・ストリッパー
Jack the Stripper (イギリス)



アルフレッド・ヒッチコック監督『フレンジー』

『鳥』以降のアルフレッド・ヒッチコック監督は低迷した。『マーニー』は題材そのものは興味深かったが、脚色と配役に失敗している。流行のスパイものに手を出した『引き裂かれたカーテン』は完全な失敗作。続く『トパーズ』も芳しくなかった。しかし、巨匠の凄みはそれで消えなかったことだ。原点回帰し、本格スリラー『フレンジー』で見事に汚名を返上してみせた。これの元ネタとなったのが、この「ジャック・ザ・ストリッパー」の事件である。

 事件そのものはありふれた連続殺人事件である。1964年から翌65年にかけて、ロンドンで6人の売春婦が絞殺され、裸にされてテムズ川に捨てられた。被害者がみな売春婦だったことから「切り裂きジャック」に準えて「剥ぎ取りジャック」と呼ばれるようになった。

 1964年 2月 2日 ハンナ・テイルフォード(30)
       4月 8日 アイリーン・ロックウッド(26)
       4月24日 ヘレン・バーセルミー(22)
       7月14日 メアリー・フレミング(30)
      11月25日 マーガレット・マクゴワン(21)
 1965年 2月16日 ブリジット・オハラ(28)

 3人目以降の被害者は歯を折られ、喉からは精液が発見されていた。また遺体にはペンキのスプレーの痕跡が残されていた。つまり、犯人は絞殺した後、例えば塗装工場のようなアジトに遺体を運び、歯をへし折って口唇を陵辱したのである。証拠は十分に残されており、犯人逮捕は比較的容易な筈である。
 にも拘わらず未解決に終わったのは、ケネス・アーチボルトという厄介者の御陰だ。この男はアイリーン・ロックウッドの遺体が発見された時点で「私が彼女を殺しました」と自首してきたのだ。しかし、裁判で供述を翻し、結局無罪となった。このために捜査当局は攪乱され、後手に回ることとなってしまったのだ。

 伝えられるところによれば、警察はアジトの塗装工場を特定していたようである。容疑者は最終的に3人にまで絞られた。逮捕は時間の問題と連日のように報道された。そんな中で容疑者の1人が、
「もうこれ以上耐えられない」
(I can’t stick it any longer.)
 と書き残して自殺した。この男は警備会社に勤務する警備員で、問題の塗装工場は彼の担当地域にあった。巷では彼が犯人ということにされているが、その氏名は公表されていないし、事件は公式には未解決のままである。


参考文献

『現代殺人百科』コリン・ウィルソン著(青土社)
『殺人の迷宮』コリン・ウィルソン著(青弓社)
週刊マーダー・ケースブック36(ディアゴスティーニ)
『殺人紳士録』J・H・H・ゴート&ロビン・オーデル著(中央アート出版社)
『連続殺人紳士録』ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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