レナード・レイク
チャールズ・イング

Leonard Lake & Charles Ng (アメリカ)



レナード・レイクとチャールズ・イング

 なんともユニークなコンビである。左は逆さにしても顔に見える人みたいだし、右は「お前に喰わせるタンメンはねえ!」と今にも怒り出しそうだ。「社長課長」という感じだが、笑ってばかりはいられない。この2人はお笑い芸人ではなく、冷酷非情な連続強姦殺人鬼なのでる。

 1985年6月2日、サンフランシスコの金物店に2人組の強盗が押し入った。東洋系の男はトンズラしたが、髭の白人は逮捕された。「ロビン・スコット・ステイプリー」と名乗るその男は、取り調べ中に「水が飲みたい」と云い出し、ポケットからカプセルを取り出して飲み込んだかと思うと、そのままバタンキューで死んでしまった。
 なんで!?
 青酸カリだったのだ。まるでスパイ映画だ。こりゃあ単なる強盗事件じゃないぞ。捜査官たちは武者震いした。

 指紋を照合した結果、この男の本名がレナード・レイクであることが判明した。しかし「ロビン・スコット・ステイプリー」なる男も実在する。数ケ月前から行方不明になっていた。レイクはこの他にも「チャールズ・ガンナー」という偽名を使っており、彼もまた行方不明だった。レイクが乗り回していたホンダ・プレリュードは「ポール・コスナー」の名義で登録されていたが、彼もまた行方不明だった。レイクが所持していたバンクカードは「ランディ・ジェイコブソン」の名義だった。云うまでもないだろうが、彼もまた行方不明だった。
 レイクのまわりはいなくなった人だらけである。その数は最終的に27人にも及んだ。

 レイクが所有するカラヴェラス郡ウィスリーヴィルの農場を捜索した捜査官は身震いした。明らかに拷問室と思われるコンクリート製の小屋を発見したのだ。中央には手錠や足枷のついた血まみれの拷問台が置かれていた。部屋はマジックミラーがはめ込まれた可動式の壁で仕切られており、裏から覗けるようになっている。しかも、三脚の上ではビデオカメラが拷問台に焦点を合わせていたのである。
 ひょっとしたらこいつらは拷問ビデオを、否、殺人ビデオを撮っていたのではないだろうか?
 付近一帯を掘り起こすと、出るわ出るわ、続々と人骨が発見された。


 1946年に生まれたレナード・レイクは典型的なミリタリー・マニアだった。海兵隊での武勇伝を自慢げに語っていたが、実は実戦に出たことは一度もなかった。除隊後は銃器を熱心に蒐集し始め、迷彩服に身を包んで町内を歩き回り、近所の子供たちを集めて爆弾の扱い方を教えた。まさに「さあ、戦争映画を見るのだ」のおじさんである。
 その一方でボンデージにも興味があり、恋人に手錠をはめてベティ・ペイジのような写真を撮り、やがてビデオも撮るようになった。映画にもなったジョン・ファウルズのベストセラー『コレクター』を読んでからは、女を誘拐して奴隷にすることを夢見るようになった。彼はそれを『コレクター』の被害者の名に肖り「ミランダ作戦」と呼んだ。核シャルターの中で銃器と性奴に囲まれて核戦争を生き残る。スケベな戦争おじさんの途方もない夢であった。

 一方、相棒のチャールズ・イングは1961年、香港の裕福な家庭に生まれた。子供の頃からかなりの問題児だったらしい。数々の非行で何度も放校処分に遭い、英国に留学した後に18歳で渡米。しばらくはブラブラしていたが、何を思ったのか海兵隊に入隊。ところが、武器をちょろまかしていたのがバレて逮捕され、裁判にかけられる直前に逃亡し、その道中で戦争おじさんと出会うのである。

 そもそもイングにはサディスティックな性向はなかったらしい。助長されたのはレイクと出会ってからだ。おそらく彼の秘蔵の写真やらビデオを見せられるうちにハマったのだろう。そして、レイクもやんちゃな弟分を見つけて大いに勇気づけられ、「ミランダ作戦」を実行に移したのである。別れた妻の父親から貰った農場に拷問室を建造すると、女を誘拐しては拷問し、チェーンソーで切り刻んだ。一方、男はブービートラップを仕掛けた農場に放たれ、人間狩りの犠牲になった。赤ん坊をその母親の眼の前で殺したことさえあるというから非情である。

 レイクの死の1ケ月後、逃亡中のイングがカナダのカルガリーで強盗を働いて逮捕された。ところが、なかなかアメリカに引き渡されない。アメリカに戻れば死刑は確実なので、弁護人がゴネたのである。6年間も法廷で争われた結果、ようやく1991年に移送された。11件の殺人で死刑を宣告されたのは1999年2月11日のことである。
 一説によれば、彼らが撮影した殺人ビデオは香港ルートで売り捌かれたとのことだが、おそらくデマだろう。


参考文献

『連続殺人紳士録』ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)
『世界犯罪百科全書』オリヴァー・サイリャックス著(原書房)


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