フリッツ・ルドルフ
Fritz Rudolff (東ドイツ)


 

 ヴァルターハウゼンにある国立病院の看護士フリッツ・ルドルフは、院長のフォン・メルクスタール教授に叱責された。医師の許可を得ずに患者に鎮静剤を投与したばかりか、看護婦の1人と情交していたからである。鎮静剤の件はともかく、職場恋愛を理由に怒鳴られたのでは堪らない。仕返しをしてやろうといろいろ思案し、院長の名声を失墜させるために、その患者を片っ端から殺していくことを思いついたというからあんまりだ。

 実行に移したのは1954年7月某日のこと。院長が執刀したヴェルナー・シュタウファッヘルがポックリと死んだ。術後の容態は良好だっただけに原因はさっぱり判らなかった。しかし、医療の現場ではこういうことはままあるものだ。解剖に付されることなく「術後の合併症」ということで処理された。

 1ケ月後、やはり院長が執刀したカール・フュルストがポックリと死んだ。このたびの手術は盲腸だった。盲腸の如きで死ぬか? 誰もがそう思ったが、こういうこともままあるものだ。このたびもやはり「術後の合併症として処理された。
 2週間後にもう一人死んだ。それでもまだ誰も疑わなかった。これまた「術後の合併症」として処理された。

 ようやく発覚したのは4人目のヴァルター・シュトリクスがポックリと死んだ時だった。あまりの急な死に疑惑を抱いた夫人が検視解剖を要求したのだ。遺体からは致死量を遥かに越える砒素が検出された。殺人であることは明らかだ。
 夫人はまた、夫の手術後、看護士から奇妙なことを訊かれたと証言した。

「緊急事態に備えてと電話番号を訊かれたんです。だけど、命に別状ない簡単な手術だと伺っていたので、おかしなことを訊くもんだと気になっていたんですよ」

 つまり、その看護士は緊急事態が起こることを予め知っていたのである。かくしてフリッツ・ルドルフは逮捕された。4件の殺人で有罪となり、直ちに処刑されたという。


参考文献

『連続殺人紳士録』ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)


BACK