チャールズ・ベッカー
Charles Becker (アメリカ)



チャールズ・ベッカー

 警察の歴史は腐敗の歴史でもある。悪徳警官が爆発的に増えたのは禁酒法以降だが、それ以前にも勿論いた。その代表格がこのチャールズ・ベッカーである。

 1912年7月16日『ニューヨーク・ワールド』紙の一面にこのような見出しが躍った。
「賭博師のローゼンタールは語る。『俺のパートナーは警部補だ』」
 ハーマン・ローゼンタールという男のタレ込みに基づくスクープだった。彼はそれまでティム・サリバンという民主党の議員に賄賂を贈ることで賭場を経営していた。ところが、そのサリバンが病に倒れ、代わってチャールズ・ベッカーという悪徳警官が法外な賄賂を要求し始めた。このままではとてもやって行けない。そこで『ワールド』紙にタレ込み、地方検事のチャールズ・シーモア・ホイットマンにも協力を約束したのである。その日の記事は腐敗撲滅キャンペーンの第一報で、ベッカーの名はまだ暴かれていなかった。

 ローゼンタールは自分の名が世間に広まれば命を狙われることはないと信じていた。その上での実名でのタレ込みだったわけだが、それが大きな間違いであったことをその日のうちに知る。深夜の午前2時、ブロードウェイのメトロポール・ホテルから一歩外に踏み出したところを4人の男に取り囲まれ、至近距離から銃撃されたのだ。即死だった。

 ローゼンタールという重要な証人を失ったホイットマンは面喰らったが、機転を働かせてすぐさま反撃に出た。共犯者であっても捜査に協力すれば起訴しない旨を公表したのだ。このエサにブラック・ジャック・ローズというチンピラが喰いついた。かくしてローズを除く4人の実行犯が芋づる式に逮捕され、首謀者のベッカーも遂に年貢の納め時。彼は実行犯たちにこのように約束していたという。

「奴を殺した後のことは俺にまかせろ。大丈夫だ。心配ない。たとえ警官がいる前で殺しても何も起こらないさ」

 大した自信である。それほどベッカーという男は顔が効いたということなのだろう。しかし、悪徳警官の代名詞になった今となってはその顔は丸潰れだ。共犯者4人と共に有罪となり、電気椅子に送られた。アメリカで処刑された警察官第1号の誕生である。

(2007年2月20日/岸田裁月) 


参考文献

『殺人紳士録』J・H・H・ゴート&ロビン・オーデル著(中央アート出版社)
『世界犯罪百科全書』オリヴァー・サイリャックス著(原書房)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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