バイブル・ジョン
Bible John (イギリス)



バイブル・ジョンのモンタージュ写真


バイブル・ジョンの似顔絵

 1968年2月24日金曜日の朝、スコットランド最大の都市グラスゴー、カーマイケル・プレイスの駐車場で、パトリシア・ドッカー(25)の遺体が発見された。死因はベルト状のものによる絞殺である。一児のシングルマザーである彼女は、前日の晩にグラスゴーで最も人気のダンスホール、バロウランド・ボールルームに出掛けていた。ここを出て間もなく襲われたものと思われる。

 捜査が進展することなく1年半が過ぎた頃、第2の犠牲者が出た。1969年8月17日日曜日、ジェミマ・マクドナルド(32)の遺体がマーキス通りの廃屋で発見されたのだ。死因はストッキングによる絞殺で、彼女もまた前日の晩にバロウランド・ボールルームに出掛けていた。

 2つの殺人には多くの共通点があった。バロウランドを出た直後に殺されたこと。絞殺であること。ハンドバッグが失われていること。そして、被害者が共にシングルマザーで、生理中だったこと。同一犯の犯行である可能性が極めて高い。

 このたびは被害者の連れの男がバロウランド・ボールルームで目撃されていた。年齢は25〜35歳。180〜190cmの長身で痩せ形。赤みがかった髪は短く、こざっぱりしていた。殺人者とはほど遠いイメージである。
 似顔絵は一般に公開されたが、有力な情報が寄せられることはなかった。そして、10月にはバロウランドでの監視をやめてしまう。これが間違いだったことが間もなく判る。

 1969年10月30日、ヘレン・パトック(29)は妹のジェニー・ウィリアムスと共にバロウランド・ボールルームへと出掛けた。ヘレンの夫ジョージは喜んで子守りを引き受け、ヘレンに帰りのタクシー代を与えた。2人の女友達と合流し、しばらく飲んだ後、午後10時にバロウランドに入場した。
 場内でジェニーはキャッスルミルクから来た「ジョン」と名乗る男に声を掛けられた。ヘレンもまた「ジョン」と名乗るパートナーを見つけていた。彼の特徴は手配中の男と一致している。長身で痩せ形、短い赤毛。そして、極めて紳士的だ。しかし、ジェニーは「ジョン」の別の一面を目撃していた。従業員に大しては極めて横柄だったのだ。
 午後11時30分にダンスホールが跳ねると、ジェニーの連れの「ジョン」は別れを告げてバス停へと向かい、もう一人の「ジョン」と姉妹はタクシーに乗った。ヘレンが「ジョン」に大晦日はどうして過ごすのかを訊ねると、彼は答えた。
「僕は酒は飲まないんだ。祈って過ごすよ」
 そして、旧約聖書のモーゼの言葉を引用し、こんなことを口にした。
「ダンスホールみたいな場所は悪の巣窟だって親父が云っていたよ」
 加えてダンスホールに通う既婚女性への嫌悪感を吐露した。ヘレンが既婚者だとは知らないようだった。
 やがて、ジェニーがケルソ通りで、ヘレンと「ジョン」はアール通りでタクシーを降りた。そして翌朝、そのアール通りの路地裏でヘレンの遺体が発見された。死因はストッキングによる絞殺で、彼女もまた生理中、ハンドバッグが失われていた。

 マスコミにより「バイブル・ジョン」と命名された犯人は、禁欲的な反面、ヘレンに性交渉を求めたのだろう。しかし、生理を理由に拒絶された。そのために激昂して殺害した。だいたいこんなところだったと推測される。ヘレンの生理用ナプキンが脇の下に押し込まれていたことからも怒りのほどが窺える。また、彼女の衣服には精液が付着していた。

 このたびは有力な目撃証人がいた。ジェニーの協力によりモンタージュ写真が作成され、全国各地に手配された。また、ジェニーは「ジョン」の更なる特徴を憶えていた。前歯が若干重なっていたというのだ。グラスゴー中の歯科医にこの情報は伝えられたが、捜査は芳しくなかった。
 結局「バイブル・ジョン」は見つからなかった。それらしき者は何人かいたが、いずれも決め手を欠き、特定するに至らなかったのである。

 時は流れて1996年、警察は1981年に自殺した容疑者の一人(ここでは「ジョン・M」とのみ記す)のDNAと、ヘレンの衣服に付着していた精液のそれとが一致した旨を発表した。ところが、後に「断定は出来ない」と撤回している。2004年には、或る男のDNAとの「80%の一致」を発表するも、その氏名は伏せられたままだ。「バイブル・ジョン」探しは尚も続いているのだ。

(2008年12月14日/岸田裁月) 


参考文献

『連続殺人紳士録』ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)
『SERIAL KILLERS』JOYCE ROBINS & PETER ARNOLD(CHANCELLOR PRESS)


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