ホール=ミルズ事件
The Hall-Mills Case (アメリカ)



犯行現場


エドワード・ホールとエレノア・ミルズ


病床から証言する「豚おばさん」

 20年代のアメリカを代表する有名な情痴事件。犯人が明らかであるにも拘わらず未解決に終わったことでも知られる。

 1922年9月16日、ニュージャージー州ブランスウィック。散歩をしていたカップルが2つの遺体に出くわした。仰向けで倒れていたのは牧師のエドワード・ホール(41)と聖歌隊の一員だったエレノア・ミルズ(34)。2人とも銃で頭を撃たれていたが、エドワードは1発なのにエレノアは3発。しかも、エレノアは喉を掻き切られ、舌が切り取られていた。
 エドワードの右手はエレノアの肩に、エレノアの左手はエドワードの太腿に添えられていた。死後に動かされたものだ。エドワードは顔に帽子を被され、彼の名刺がまるで墓標のように足に立て掛けてあった。周りには手紙が散乱している。エレノアからエドワードに宛てたラブレターである。
 2人とも既婚者だ。どうみても痴情のもつれの犯行である。その配偶者が第一容疑者であることは間違いない。ところが、地元警察の管轄争いやらなんやらで、捜査は一向に進展しなかった。

 進展し始めたのは4年も経ってからである。エドワードの家で女中として働いていたルイーズ・ガイストの夫が、離婚したいがためにこのように暴露したのだ。
「ルイーズは、エドワードとエレノアが駆け落ちしようとしているのを知り、そのことを夫人のフランシスに知らせた。そして駆け落ちの夜、待ち伏せしていたフランシスとその兄のウィリアム・スティーブンスが2人を殺した。手を貸したルイーズは口止め料として5千ドルを受け取った」
 新聞はこの告発を一面で大きく取り上げ、やがてフランシスとウィリアム、同じく兄のヘンリー・スティーブンスが逮捕された。

 ヘンリーも逮捕されたのは「豚おばさん=Pig Lady」の愛称で新聞を賑わすことになるジェーン・ギブソンの証言が大きく影響している。現場付近で養豚場を営んでいる彼女は、1922年9月14日の午後9
時頃、後に遺体が発見された林檎の木の下で4つの人影を目撃した。やがて銃声が轟き、1つの影が崩れ落ちた。女の声で「やめて!」と3回繰り返された後、再び銃声。もう1つの影も崩れ落ちた。その後、女の声で「ヘンリー」と呼ぶのが聞こえた…というわけで、ヘンリーという名の男が現場にいた可能性が出て来たのだ。
 ところが「豚おばさん」の母親が弁護側の証人として出廷。娘が病的な嘘つきであることを証言したために「豚おばさん」は思わず失神。その後、ベッドに寝たまま証言を続けたために全米の人気者になってしまった。

「豚おばさん」の証言はともかく、フランシスが事件に関わっていたことはまず間違いないだろう。女の舌を切り取る行為は男にはなかなか出来るものではない。嫉妬に狂った女の為せるワザだ。「この舌であたしの良人をたぶらかしたのね!」ってなもんである。
 そして、ウィリアムの関与も間違いない。というのも、エドワードの足に立て掛けられていた名刺には、彼の指紋がバッチリ残っていたのだ。
 ところが「豚おばさん」のインチキ証言が足を引っ張り、陪審員は無罪を評決。コリン・ウィルソンは、検事が付近の住民を田舎っぺ呼ばわりしていたことも足を引っ張ったことを指摘している。つまり、陪審員は検事憎さに無罪を評決したというわけだ。


参考文献

『殺人紳士録』J・H・H・ゴート&ロビン・オーデル著(中央アート出版社)
『情熱の殺人』コリン・ウィルソン(青弓社)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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