ハリー・ヘイワード
Harry Hayward (アメリカ)



ハリー・ヘイワード

 白土三平著『忍法秘話』シリーズの『くぐつ返し』には「傀儡(くぐつ)の術」という忍法が登場する。村娘に催眠術をかけて「傀儡」にし、敵を殺させるのである。これと同じことをしたのがハリー・ヘイワードだ。もっとも、彼が「傀儡」にしたのは村娘ではなくアル中男だった。

「弟が催眠術で人を殺そうとしています」
 こんな突飛な話を信じる者はあまりいない。アドリー・ヘイワードから相談された弁護士も当初は全く信じなかった。ところが1894年12月3日、ミネアポリスでキャサリン・キング(通称キティ・27歳)が頭を撃たれて殺害されると信じざるを得なくなった。アドリーの弟、ハリーが殺そうとしていたのが彼女だったからだ。
 弁護士は直ちに検事に報告した。当初は半信半疑だった検事もやがて信じざるを得なくなる。キティには5000ドルの生命保険が2つもかけられていたからだ。受取人はもちろん「ハリー・ヘイワード」だった。

 ハリー・ヘイワードが催眠術を何処で学んだのかは判らない。とにかく「傀儡」にしたキティから金を引き出しては博打に蕩尽していたようだ。やがてキティにもう財産がないと悟るや保険金殺人を企む。兄アドリーを「傀儡」にして殺させようとしたが、彼は催眠術にはかからなかった。う〜ん大失敗。仕方がないのでランクを落として、単細胞でアル中のクラウス・ブリクストに催眠術をかけた。そして、彼に殺させている間、自分は地元のオペラハウスで観劇してアリバイを作ったのである。

 かくしてお縄になったハリーはすべてを自供し、絞首刑に処された。処刑の際、目立ちたがりの彼は赤い服を来て処刑されることを望んだが、その願いは叶えられず、代わりに赤く塗られた処刑台で、赤い紐で吊るされたとの逸話が残っている。なんちゅう逸話や。

(2007年1月1日/岸田裁月) 


参考文献

『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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