カーマイン・カラブロ
Carmine Calabro (アメリカ)



チャイ

 1979年10月、ニューヨーク州ブロンクスのアパートの屋上で、若い白人女性の惨殺死体が発見された。フランシーヌ・エルヴェソン(26)。特殊学級の教師である彼女は、両親と共にそのアパートに住んでいた。その日の朝早くに家を出たのを最後に行方不明になっていた。

 遺体は極めて異常だった。ヘブライ語の「チャイ」という文字の形に置かれていたのだ。しかし、反ユダヤ主義者の犯行ではない。それは彼女が身につけていたペンダントのデザインだったのだ。そのペンダントは犯人により戦利品として奪われていた。
 両手首はストッキングで縛られ、頭にはパンティーが被せられていた。残りの衣類はそばに積まれ、その下には犯人のものと思われる糞があった。
 顔面を殴られ、ハンドバッグの革紐で絞殺された後、ナイフで滅多刺しにされていた。乳首は切り取られて胸の上に置かれている。体中に血が塗りたくられ、内腿には噛んだ痕があった。膣には傘とペンが突っ込まれて、陰毛には櫛が絡みついている。腿と腹部にはインクでこのように書かれていた。
「糞ったれ」
(Fuck you.)
「お前らには俺を止められない」
(You can't stop me.)

 間もなく地元警察は容疑者を3人に絞り込んだ。1人目は同じアパートに住み、性犯罪の前科がある男。2人目はかつて同アパートで用務員をしていた黒人で、アパートの鍵を返却していなかった。3人目は事件の朝にフランシーヌの財布を「拾った」15歳の少年で、その日の遅くに父親に財布を渡して「持ち主に返してくれ」と頼んでいた。
 協力を求められたFBIの特別捜査官ロバート・K・レスラーは、犯人のプロファイルをこのように推理した。
「白人男性。年齢は25歳から35歳。被害者と顔見知りで、そのアパートか近所に住んでいる。計画的な犯行ではない。おそらく精神異常者で、過去1年以内に精神病院に入院していた可能性がある。おそらく学校を中退しており、遺体をどう扱うか等はポルノ雑誌から学んだのだろう」
 白人男性としたのは、この種の犯罪はほとんど同じ人種間で起きるからだ。また、ティーンエイジャーによる犯行は性急さが特徴である。故にじっくりと時間をかけた本件は大人の犯行ということになる。

 このプロファイルと合致するのが1人目の容疑者、すなわちカーマイン・カラブロ(32)だった。高校を中退し、精神病院に1年ほど入院した後、芝居の裏方をしていたが、事件前に解雇されていた。父とともに暮らすその部屋には膨大な量のポルノ雑誌があった。もちろん、フランシーヌとは顔見知りだ。だから騒がれずに屋上に誘き出すことが出来たのだ。
 事件当時、カラブロが精神病院に入院していたことがネックとなったが、捜査が進むに連れてアリバイは崩れた。警備が杜撰な病院で、カラブロが抜け出すことも可能だったのだ。
 そして、何よりの証拠が歯形だった。もはや云い逃れは出来なかった。有罪となったカラブロには25年以上の終身刑が云い渡された。

(2009年4月16日/岸田裁月) 


参考文献

『世界犯罪百科全書』オリヴァー・サイリャックス著(原書房)
『FBI心理分析官』ロバート・K・レスラー&トムシャットマン著(早川書房)


counter

BACK