サディアス・ルウィンドン
ゲイリー・ルウィンドン

Thaddeus & Gary Lewingdon
a.k.a. .22 Caliber Killers (アメリカ)



サディアス・ルウィンドン


ゲイリー・ルウィンドン

 1977年12月10日、オハイオ州ニューアーク。ジョイス・ヴァーミリオン(37)とカレン・ドッドゥリル(33)が「フォーカーズ・カフェ」の店じまいを終えたのは午前2時30分頃のことだった。そして、裏口から出たところを何者かに銃撃された。2人の遺体が発見されたのは午前8時になってからだ。雪の中で凍りついた遺体には、22口径の銃弾が何発も撃ち込まれていた。
 捜査が難航する中、1人の女性が出頭した。クラウディア・ヤスコという26歳のゴーゴー・ダンサーだ。曰く「犯人は私の恋人とその連れです。私も現場にいたので共犯者です」。かくして、彼女の証言に基づき上記3名が逮捕されて、事件は落着したかに思われた。

 2ケ月後の1978年2月12日、オハイオ州コロンバスの自宅で、ナイトクラブのオーナー、ロバート・マッキャン(52・通称ミッキー)と母親のドロシー・マッキャン、そしてミッキーの恋人クリスティーン・ハードマンの遺体が発見された。それはベテランの捜査官でも眼を覆うほどの惨状だった。胸や腹ではなく、顔面に22口径の銃弾が何発も撃ち込まれていたのだ。最も酷いのがミッキーだ。額を2発、口を1発、後頭部を2発である。これだけ撃ち込まれたら顔などなくなってしまう。

 4月8日にはオハイオ州グランヴィル郊外の自宅で、ジェンキン・ジョーンズ(77)の遺体が発見された。彼は計6発も22口径の銃弾を撃ち込まれていた。うち2発は頭である。また、4匹の飼い犬も撃ち殺されていた。

 4月30日にはやはりコロンバスで、ジェラルド・フィールズが或るクラブで警備員としてバイトしている最中に射殺された。
 この時点で警察はようやく一連の事件(但し、容疑者が逮捕されている冒頭の事件は除く)が無関係ではないことに気づき始めた。弾道検査の結果もそのことを裏づけていた。銃弾はいずれも同じ銃から撃たれたものだったからだ。つまり、コロンバス近辺に凶悪な連続殺人者が潜んでいるのだ。やれやれ。捜査官たちは頭を抱えた。

 3週間後の5月21日には犠牲者のリストに更に2名が追加された。コロンバスの自宅でジェリー・マーティン(47)と妻のマーサ(50)の遺体が発見されたのだ。捜査官たちが証拠を求めて家の中を捜索していると、マーサの家族や友人たちが集まり始めた。実はその日は彼女の51回目の誕生日で、祝いの宴が予定されていたのだ。これは単なる偶然だろうか?(偶然だった)

 過去の類似事件を洗った捜査官は或る事件に注目した。それは昨年の12月10日に起きたニューアークでの事件、つまり本稿の冒頭の事件である。既に容疑者が逮捕拘留されているが、これも無関係ではないのではないか? 念のために弾道検査に回したところ、やはり同じ銃から撃たれたものであることが判明した。クラウディア・ヤスコ以下容疑者3名の起訴が直ちに取り下げられたことは云うまでもない。拘留中の彼らが犯人であるわけがないのだ。


 捜査は一向に進展しなかった。そもそも動機すら判らなかった。仮に物盗りだとしても、あれほど残虐に殺す必要はない筈だ。犠牲者はどうして殺されなければならなかったのか?
 捜査官の多くは犠牲者がランダムに選ばれたとは思っていなかった。彼らには何らかの繋がりがあるのではないか? 例えば、同じ事件の陪審員だったとか、同じ店の常連だったとか。しかし、どんなに調べようとも犠牲者をリンクさせることは出来なかった。彼らには面識が全くなかったのだ。

 6ケ月後の12月4日、自宅のガレージでジョセフ・アニック(56)の遺体が発見された。彼は胸と腹に5発の銃弾を受けていた。弾道検査によれば、このたびの銃は一連のものとは別物だったが、その手口の類似から同じ犯人によるものと断定された。

 5日後の12月9日に事件は一挙に解決を迎えた。ジョセフ・アニックのクレジット・カードを使用した男が逮捕されたのだ。男の名はゲイリー・ルウィンドン(38)。コロンバス近郊在住の修理工だ。彼はあっさりと一連の犯行を認めた。そして、共犯者として兄のサディアス・ルウィンドン(42)の名を挙げたのである。
 なんと! 一連のおぞましい犯行は一組の兄弟によって行われていたのだ。
 ゲイリーによれば、殺しを担当していたのはサディアスだという。一方、サディアスによれば、話を持ちかけたのはゲイリーだという。当初はサディアスも乗り気で、大いに殺しを楽しんでいたが、次第に「ヤバい」と思い始める。
「やっぱりこんなことはよくないよ」
 とチームを解消したのが6ケ月前のことである。つまり、ジョセフ・アニックの件はゲイリーの単独犯だったのだ。だから銃が別物だったのである。なるほどね。

 かくしてゲイリーは10件、サディアスは9件の殺人で有罪となり、それぞれに終身刑が宣告された。サディアスは1989年4月17日に肺癌で死亡。一方、ゲイリーは判決後に「おつむがおかしい」と診断されて、その筋の病院に収容された。脱走を企てる等、兄貴よりもやんちゃな面を見せた後、2004年10月に心不全で死亡。
 なお、犯行の動機については兄弟がだんまりを決め込んでいたために不明のままである。麻薬が関係していたのではないかとの説が有力だが、それとは別に、彼らが殺しそのものを楽しんでいたことはまず間違いないだろう。そうでなければあれほど撃つ必要はない。

 さて、最後に、クラウディア・ヤスコはどうして自首したのかの疑問に答えておこう。実は、彼女は統合失調症だったのだ。つまり、すべては彼女の妄想だったのである。

(2009年4月11日/岸田裁月) 


参考資料

『連続殺人紳士録』ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)
Crime Library on truTV.com BLOOD BROTHERS/ GARY AND THADDEUS LEWINGDON


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