ゲイリー・リッジウェイ
Gary Ridgway
a.k.a. The Green River Killer (アメリカ)



ゲイリー・リッジウェイ

 1982年から84年にかけて、ワシントン州シアトルでは同一犯の犯行と見られる殺人事件が相次いでいた。被害者の殆どは売春婦か家出少女で、性行為後に絞殺されてグリーン・リバーに遺棄されていた。以下は遺体が発見された年月日とその氏名である。その数に諸君は圧倒されることだろう。

 82年 7月15日 ウェンディ・コーフィールド(16)
     8月12日 デボラ・ボナー(23)
     8月15日 マルシア・チャップマン(31)
           シンシア・ハインズ(17)
           オパール・ミルズ(16)
     9月25日 ジゼル・ラヴォーン(17)
 83年 1月31日 リンダ・ルール(16)
     5月 8日 キャロル・クリステンセン(21)
     8月11日 ショーンダ・サマーズ(16)
     9月19日 ゲイル・マシューズ(23)
    10月15日 イヴォンヌ・アントッシュ(19)
    10月27日 コンスタンス・ナオン(19)
    10月29日 ケリー・ウェア(22)
    11月13日 メアリー・ミーハン(18)
    12月14日 キミ=カイ・ピッツァー(16)
 84年 2月14日 デリーズ・プレイジャー(22)
     3月13日 リサ・イェイツ(19)
     3月22日 シェリル・ウィムス(18)
     3月31日 ドロレス・ウィリアムス(17)
           デビー・アバナシー(26)
     4月 1日 テリー・ミリガン(16)
           サンドラ・ゲイバート(17)
     4月 2日 アルマ・スミス(18)
     4月20日 アミーナ・アギシェフ(35)
           ティナ・トンプソン(21)
     5月26日 コリーン・ブロックマン(15)
    10月12日 メアリー・ベロー(25) 
    11月14日 マルティナ・オーソーリー(18)

 ピークは1984年で過ぎたものの、その後も犯行は続いた。地元警察はFBIの協力の下に「グリーン・リバー・キラー」特別捜査チームを設けて犯人逮捕に努めたが、成果は一向に上がらなかった。FBIが作成したプロファイリングが曖昧に過ぎたのだ。
「おそらく崩壊家庭に育ち、母親を憎んでいる可能性が高い。年齢は20歳から40歳。白人で、酒と煙草を嗜む。性犯罪の前科があると思われる」
 こんな奴、そこら中にごろごろしている。これで容疑者を絞り込めというのが土台無理な話だ。

 そうこうするうちに、一人の男が犯人逮捕の協力に名乗りを上げた。あの頭脳明晰にして容姿端麗の連続殺人犯、テッド・バンディである。フロリダ州のスターク刑務所で死刑執行を待つ身であったこの男は、シアトルでも犯行を繰り返していた。そこで「捜査の参考になるのではないか」と協力を持ち掛けたわけだが、結局は何の参考にもならなかった。「単に死刑執行を引き延ばすための悪足掻きに過ぎなかった」というのが今日の多数意見である。

 かくして「グリーン・リバー・キラー」の捜査は暗礁に乗り上げ、かの「ゾディアック」と並ぶ有名未解決事件の一つとして数えられるに至った。
 迷宮入りかと思われた事件が動いたのは2001年になってからだ。DNA鑑定という新技術が容疑者の一人、ゲイリー・リッジウェイが犯人であることを導いたのだ。彼のDNAが被害者に残されていた精液のそれと一致したのである。
 但し、DNA鑑定によりリッジウェイの犯行であることが証明出来たのは、初期被害者のマルシア・チャップマン、シンシア・ハインズ、オパール・ミルズ、そしてキャロル・クリステンセンの4件だけだった。そこで検察は司法取引を持ち掛けた。
48人の殺害を認める代わりに、死刑は求刑しない。終身刑に留める」
 これにリッジウェイが同意したので「グリーン・リバー・キラー」の事件は一件落着。少なくとも48人も殺したくせに、今でもワラ・ワラのワシントン州刑務所でのうのうと暮らしていやがる。

(2009年12月28日/岸田裁月) 


参考資料

『連続殺人紳士録』ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)
http://en.wikipedia.org/wiki/Gary_Ridgway


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