ベルンハルト・シュワルツ
Bernhard Schwartz (ドイツ)



『クラッシュ』撮影中のクローネンバーグ

 J・G・バラードの小説『クラッシュ』には、自動車事故が大好きで衝突を繰り返す人々が登場する。1996年にデヴィッド・クローネンバーグにより映画化されたのでご存知の方も多かろう。また、クエンティン・タランティーノ監督の近作『デス・プルーフ』にも、自動車事故を偽装した殺人を繰り返す異常者が登場する。中盤の正面衝突のシーンはかなりの迫力だった。
 しかし、いくら何でも現実にはそんな阿呆はいないだろうと思っていたら然に非ず。『デス・プルーフ』を地で行く事件がドイツで起きていたのである。

 1986年10月11日土曜日、シュトゥットガルト近郊の町、フリッケンハウゼン。22歳の配管工、ベルンハルト・シュワルツはディスコで踊り惚けていた。酒もしこたま飲んでいた。日付が変わっても飲み続け、まだ明けやらぬうちに切り上げた。ところが、駐車場で愛車のフォルクスワーゲンに乗り込もうするや否や、巡査に見咎められてしまう。
「お前、だいぶ酔ってるな。車に乗っちゃ駄目だ」
「らいじょうぶらって」
「呂律が回ってないじゃないか」
「らから、のんれないって」
「嘘をつくな。キーと免許証と出せ。預かるから。明日、酔いが醒めたら署まで来なさい」
 と、キーと免許証を取り上げられてしまう。普通ならば「ヘタこいたあ」と凹んで、家に帰って屁をこいて寝ちまうところだが、この男はそうはしなかった。怒り狂った彼は、スペアのキーを手にすると駐車場に取って返し、死のドライブに出発進行。
「もう死んでやろうと思いました。出来るだけ多くの人を道連れにしようと思いました」
 やけのやんぱち、日焼けのなすび、色は黒くて食いつきたいが、あたしゃ入れ歯で歯が立たない。
 全くワケが判らない。よほど悔しかったのだろうが、怒りの矛先を間違えている。どうして謂れなき人々を道連れにせにゃならんのか。

 まず、歩行中のハラルド・ミューラーを撥ね飛ばしたシュワルツは、あろうことか、アウトバーンを逆走してウェンドリンゲン方面に向かった。つまり、彼は正面衝突を企てていたのだ。時速は100kmを越えていた。ところが、2台の車にかわされてしまう。ははあん。ヘッドライトをつけているのがイカンのだな。シュワルツはライトをオフにして、次の対向車に突進した。
 対向車のアウディには以下の4人が乗っていた。

 フリードリッヒ・ブラウンミューラー
 ローズマリー・ライヒェルト(フリードリッヒの恋人)
 ヴォルフガング・ブラウンミューラー(フリードリッヒの弟)
 クラウディア・シュナイダー(ヴォルフガングの恋人)

 4人はカリブ海でバカンスを過ごすために、フランクフルト空港に向かう途中だった。それがまさかの正面衝突である。フリードリッヒはシートベルトを着けていたおかげで一命は取り留めたものの、残りの3人は一溜まりもなかった。おくやみ申し上げます。
 一方、シュワルツはというと軽傷で済んだというから驚きだ。まさかデス・プルーフ仕様ではあるまいに。

 法廷でシュワルツは素直に殺意を認めたが、その責任をすべて巡査に押しつけた。
「あいつがキーと免許証を取り上げなければ、彼らは死なずに済んだんだ」
 そりゃそうかも知れないが、こんな抗弁が通る筈がない。有罪となったシュワルツには終身刑が云い渡された。

(2009年3月22日/岸田裁月) 


参考文献

『THE ENCYCLOPEDIA OF MASS MURDER』BRIAN LANE & WILFRED GREGG(HEADLINE)


BACK