ジャック・ウンターヴェーゲル
Johann "Jack" Unterweger(オーストリア)



ジャック・ウンターヴェーゲル

 ジャック・ウンターヴェーゲルジャック・ヘンリー・アボットによく似ている。不遇な環境に育ち、若い頃から犯罪に手を染め、遂に人を殺めて投獄された。そして、獄中で本を読み漁り、自らも執筆活動を始めた。それが文学者に評価されて仮釈放が認められたが、娑婆に戻った途端に元の木阿弥。獄中で自殺したところまでそっくりだ。参考資料を読みながらデジュヴュに似た感覚を覚えた。
 但し、両者はスケールが異なる。仮釈放後にアボットが殺したのは1人。ところが、ウンターヴェーゲルは国を跨いで10人以上も殺しているのだ。前代未聞の連続殺人犯だったのである。

 ジャックことヨハン・ウンターヴェーゲルは1950年8月16日、ウィーンで生まれた。母親は売春婦だった。父親の身元は不明だが、どうやらアメリカ人の兵士らしい。
 ちなみに、オーストリアでは売春は合法である。
 生まれて間もなくアル中の祖父に預けられたウンターヴェーゲルは、若い頃から数々の犯罪に手を染めた。初めて逮捕されたのは16歳の時だ。容疑は売春婦への暴行だった。

 1974年、ウンターヴェーゲルはマーガレット・シェイファー(18)を殺害した容疑で逮捕された。彼女の家に押し入り、ブラジャーで絞殺したのである。その時の模様を彼はこのように述懐している。
「彼女を殴った時、私は母のことを思い描きました」
 己れを捨てた母親への憎悪が犯行を促したのだろうか? 被害者もまた母親と同じ売春婦だったのだ。

 終身刑を宣告されたウンターヴェーゲルは、獄中で読み書きを学び、本を読み漁り、やがて詩や小説を書き始めた。そして自伝の『煉獄(Fegefeur)』が出版されてベストセラーとなり、文学賞を受賞した。この辺り、永山則夫が思い出される。
 1990年5月23日、文学者や評論家たちの後押しでウンターヴェーゲルの仮釈放が実現した。出所後の彼は「更正した殺人者」として様々なメディアに顔を出した。社会復帰をテーマにしたテレビの討論番組で司会者を務めたこともあった。写真集まで発売されたというから、こうなるともうアイドルである。しかし、その裏で彼は犯行を再開していた。

 1990年9月15日、隣国チェコのプラハを流れるヴルタバ川の岸辺でブランカ・ボクーヴァの遺体が発見された。死因は絞殺である。首には彼女のストッキングが結びつけられていた。

 1990年12月31日、ブレゲンツの森の中でハイデマリー・ハンメラーの遺体が発見された。死因はやはり絞殺で、首には彼女のストッキングが結びつけられていた。死後1ケ月は経過していた。

 1991年1月5日、グラーツの森の中でブルンヒルド・マッサーの遺体が発見された。死因はまたしても絞殺で、首には彼女のストッキングが結びつけられていた。死後2ケ月は経過していた。

 その後もオーストリアで立て続けに5人の女性の遺体が発見された。以上の8件には共通項があった。被害者はいずれも売春婦で、首には被害者のストッキングが結びつけられていた。その結び目が特徴的であることから、同一犯の犯行であることが窺えた。

 前述の通り、オーストリアでは売春は合法である。故にアメリカ等とは異なり、売春婦が殺されるケースは極めて稀だった。ところが、ここへ来てこの頻度である。そこで注目されたのが「売春婦を殺した売春婦の子」ジャック・ウンターヴェーゲルだった。彼の事件を担当した元刑事も彼の仕業であることを疑っていた。売春婦を憎悪する者の犯行としか思えなかったのだ。

 その頃のウンターヴェーゲルは、雑誌の要請に応じてカリフォルニアに滞在し、アメリカの売春事情を取材していた。そして、この間に同地で3人の売春婦が殺害された。いずれもオーストリアのそれと同じ手口だった。
 間もなくICPOにより指名手配されたウンターヴェーゲルは、各国を股に掛けて逃げ回り、1992年2月27日にフロリダ州マイアミでようやく逮捕された。

 かくして11件の殺人容疑で起訴されて、9件の殺人で有罪となったジャック・ウンターヴェーゲルは、その日に拘置所の中で首を吊って自殺した。その結び目は被害者のそれと同じだった。

(2011年2月10日/岸田裁月) 


参考資料

http://en.wikipedia.org/wiki/Jack_Unterweger
http://www.trutv.com/library/crime/criminal_mind/profiling/profiling_2/index.html
http://www.francesfarmersrevenge.com/stuff/serialkillers/unterweger.htm
http://www.users.on.net/~bundy23/wwom/unterweger.htm


BACK