ルイ・カルヴァート
Louie Calvert
a.k.a. Louie Jackson (イギリス)



 リーズ在住の元売春婦、ルイ・カルヴァート(旧姓ジャクソン・33)は嘘が服を着たような女だった。家政婦をしていた彼女は、雇い主のアーサー・カルヴァートに、
「あなたの子供を身籠りました」
 と嘘をついて結婚を迫り、已むなくアーサーが籍を入れると、
「子供はデューズバリーにいる妹の家で産みます」
 と家を出て、デューズバリーからアーサーに電報を打つ。
「無事に妹の家に着きました」
 ところが、そんな妹などこの世に存在しないのだ。すぐさまリーズに取って返し、リリー・ウォーターハウス(40)という未亡人の家政婦になった。1926年3月8日のことである。これまでの彼女の言動の中に真実が一つもないのだから驚いてしまう。

 ルイが家政婦になった目的は、どうやらウォーターハウス夫人の財産着服であったようだ。ちょいちょい銀器やら装飾品やらをちょろまかしては質入れしていたのだ。だが、悪事はいつしかバレるもの。ウォーターハウス夫人は3月30日に警察署に出向き、困った家政婦について相談している。
 一方、ルイはというと、今や夫となったアーサーの手前、子供を用意しておかなければならなかった。「里親求む」の新聞広告を探して回り、ようやく産まれたばかりの非嫡出子を入手したのが3月31日のことである。

 さあ、ここからが急展開だ。ウォーターハウス夫人はその日の午後6時30分頃に帰宅した姿が隣人に目撃されている。その1時間後、隣人は人が争うような物音と女性の悲鳴を耳にしている。
 翌日の4月1日、2人の警官がウォーターハウス家を訪ねた。その日まで夫人が家政婦を告訴するか否かを留保していたからである。ところが、呼び鈴を押せども返事がない。大家を呼んで合鍵で中に入ると、2階の寝室で夫人は冷たくなっていた。死因は絞殺だった。
 夫人は何故に殺されたのか? おそらく前日の晩、警察に相談しに行った旨をルイに明かしたからだろう。明日にも逮捕されるかも知れないことを悟った彼女は、殺さざるを得なかったのである。

 間もなくルイ・カルヴァートは夫の自宅で逮捕された。そして、殺人容疑で有罪となり、死刑を宣告されたわけだが、その際にも彼女は嘘をついている。
「私は今、妊娠しています」
 妊娠中の死刑囚は子供を産むまでは刑の執行が猶予される。そのことを知った上での嘘だったのだろうが、すぐに嘘であることが露見して、1926年6月24日に絞首刑により処刑された。

 なお、彼女は死刑執行直前に、かつての雇い主たるジョン・フロビシャーを殺害したことを認めている。遺体は運河に浮かんでいたことから「事故死」として処理されたらしい。しかし、ルイ・カルヴァートは空気を吸うように嘘をつく女である。どこまで本当なのか判らない。ひょっとしたら、新たな訴訟を準備することで延命しようとしていたのかも知れない。

(2012年10月7日/岸田裁月) 


参考資料

『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)
http://www.murder-uk.com/
http://www.capitalpunishmentuk.org/louie.html
http://eotd.wordpress.com/2008/06/24/24-june-1926-louie-calvert/


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