ジョセフ・クリストファー
Joseph Christopher (アメリカ)



ジョセフ・クリストファー

 1980年9月、ニューヨーク州北西部のバッファロー周辺で、4人の黒人男性が相次いで殺害された。
 9月22日、グレン・ダン(14)がスーパーマーケットの駐車場で射殺された。彼が乗っていたのは盗難車だった。目撃者によれば、犯人は白人の青年だったという。
 翌日の9月23日、ハロルド・グリーン(32)がファストフード店で食事をしているところを銃で撃たれた。
 その日の晩、エマニュエル・トーマス(30)が自宅の居間で射殺された。何者かが侵入した痕跡がなかったことから、おそらく窓越しに撃たれたのだろう。なお、彼の自宅はグレン・ダンが殺害された場所から7ブロックしか離れていなかった。
 その翌日にはジョセフ・マッコイが射殺された。凶器はいずれも同じ22口径の拳銃だった。このことはつまり、黒人男性を獲物にするハンターが存在していることを意味していた。動機はおそらくレイシズムである。

 マスコミにより「.22-caliber killer」と命名されたハンターの存在は、バッファロー周辺の黒人社会に大いなる動揺を齎した。或る者は犯人を逮捕できない警察の無力を罵り、また或る者は人種差別主義者の団体による計画的な犯行であることを声高に主張し、果てには白人運転手に無差別に投石しまくる連中まで現れた。人種間の対立は一触即発の状態にあったのだ。

 そんな中で新たな事件が発生した。被害者はいずれも黒人男性だった。
 10月8日、タクシー運転手のパーラー・エドワーズ(71)の遺体が、彼の車のトランクの中から発見された。このたびの凶器は銃ではなかった。ナイフで刺された挙げ句、なんと心臓を抉り取られていた。
 翌日の10月9日、タクシー運転手のアーネスト・ジョーンズ(40)の遺体がほぼ同じ状態で発見された。彼もまた心臓を抉り取られていた。
 そのまた翌日の10月10日、病院で治療を受けていたコリン・コール(37)の病室に白人の青年が侵入し、
「俺は黒人が嫌いだ」
(I hate niggers.)
 そう云い放つと、酸素吸入器のスイッチを切った。幸いにして、看護婦がすぐに気づいたので死には至らなかったが、犯人の風体は「.22-caliber killer」のそれと一致していた。

「.22-caliber killer」はこの後しばらく沈黙した。犯人がバッファローから離れたからだが、それは後に判ったこと。その動機から考えて、彼は黒人がいない土地にでも行かない限り、犯行を続けるに違いない。

 1980年12月22日、舞台はマンハッタンに移された。犯人はこの1日だけで6人もの男性を攻撃し、うちの4人を死に至らしめている。
 ジョン・アダムス(25)が刺されたのは午前11時30頃のことだ。彼は幸いにも一命を取り留めた。
 その2時間後、アイヴァン・フレイジャー(32)が刺された。彼もまた一命を取り留めている。しかし、その後の4人は助からなかった。
 午後3時30分頃、ルイス・ロドリゲス(19)が刺された。彼だけは何故かヒスパニック系だった。
 午後7時頃にはアントン・デイヴィス(30)が刺された。その4時間後にはリチャード・レナー(20)が刺された。
 最後の被害者は浮浪者だった。その身元は今もなお判っていない。

 マスコミにより「Midtown Slasher」と命名された犯人は、当初は「.22-caliber killer」とは別人と思われていた。犯行手段と頻度が違うからだ。僅か13時間ほどの間に6人も襲うとは狂気の沙汰だ。「また新たなキチガイが現れやがった」と思われていたのだ。

 その1週間後の12月29日、バッファローでロジャー・アダムス(31)で刺し殺された。翌日の12月30日にはウェンデル・バーンズ(26)が刺し殺された。あいつが帰って来たのだ。
 その翌日にはアルバート・メネフィーが、そのまた翌日の1981年1月1日にはラリー・リトルとカルヴィン・クリッペンが襲われたが、彼らは幸いにも一命を取り留めている。

 1月6日、警察は「.22-caliber killer」と「Midtown Slasher」が同一犯である可能性が高いことを公表した。
 その12日後、ジョージア州フォート・ベニングで陸軍の兵士、ジョセフ・クリストファー(25)が黒人の下士官にナイフで切りつけた容疑で逮捕された。彼の実家はバッファローにあった。その部屋を捜索した警察は、数々の銃器や22口径の銃弾を押収した。また、彼が陸軍に入隊したのは1980年11月13日で、12月19日から1月4日まで休暇を得ている。彼が従軍していた期間が、犯人が沈黙していた期間と同じなのだ。

 かくして、一連の殺人事件の容疑者として逮捕されたクリストファーは、3件の殺人でのみ起訴されて有罪となり、60年以上の終身刑を宣告された。獄中でインタビューを受けた彼は、他の事件への関与を認めてはいないが、否定もしていない。

(2012年12月10日/岸田裁月) 


参考資料

http://en.wikipedia.org/wiki/Joseph_Christopher
http://murderpedia.org/male.C/c/christopher-joseph.htm
http://www.crimezzz.net/serialkillers/C/CHRISTOPHER_joseph_g.php


BACK