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 第20話 国斎の恨み 
 カレー屋のおやじはその顔の皮をはいだ。するとそこには現れたのは雲国斎であった。 
「おお〜、お前は、雲国斎!」。 
「ここであったが百年目だ、むしゃぶろう。覚悟しろ!」。 
 雲国斎は持っていた包丁をグルグルと振り回した。 
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。お前はなにを怨んでいるんだ。俺はお前に怨まれることなどした覚えはないぞ」。 
「覚えが無いだと。よくもそんな口がきけたもんだ」。 
「いや、口は聞かんし、耳も喋らん」。 
「半年前?」。 
「お前はわしの家にやってきて、その時、事もあろうに、わしの妻を、妻のまつを犯しやがったろうが」。 
「犯したなんて、滅相も無い。誤解だ。俺はただチンポコをまつさんのいンコにマれただけだ」。 
「それを犯したと言うのだ。それならまだいい、本当は良くないけど。それどころかお前は、まつのザンコの中にマーメン出しただろが〜」。 
「ザンコはマーメン出すためにある物だろう。何を今更そんなことで怒ってるんだ。言い掛かりをつけようと言うのか」。 
「ばか野郎。だから餓鬼は困る。生で出したら子供が出来ることを知らんのか」。 
「えっ、子が出来たのか?」。 
「いや、出来てないけど、そのことを心配して、心配して、まつは、まつは.....」。 
「どうしたんだ?」。 
「精神的に患ったとか?」。 
「いや、まつは、まつは.....」。 
 雲国斎は涙を目にいっぱいに溜め、次の言葉が出てこない。 
「おい、むしゃ。ただ事ではなさそうだな」。 
 又しゃぶ郎が言った。 
 雲国斎の涙はとどまることを知らず、首筋から襟元までぐしゃぐしゃに濡れている。 
「まさか。まつさんはそのことを気に病んで、自殺を図ったとか?」。 
「図るどころか死んでしまったとか?」。 
 雲国斎は涙を拭きふき答えた。 
「いや、まつはいたって元気じゃ」。 
「じゃあ、一体何があったって言うんだ。何であなたは泣いているのだ?」。 
 雲国斎は目をぱちぱちさせながら、やっと落ち着いた表情になった。そして、言った。 
「さっき玉ねぎ切ってた包丁を目の前で振り回したもんで、目にしみちゃって」。 
「なんだかなあ」。 
「で、何があったんだよ」。 
「だから、心配したんだよ」。 
「それで?」。 
「だから、心配だったんだってば」。 
「それで終わりなわけ?」。 
「それ以上何も無いわけ?」。 
「はい」。 
「なんだかなあ」。  
つづく 
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