スナッフ
SNUFF

1976年 82分 カラー
スタッフ、キャストは不明


 イタリア製ドキュメンタリー『グレートハンティング』が「自然動物園でのライオンの人喰い」のヤラセ映像で話題になっていた頃、もう1本のヤラセ映画がセンセーションを巻き起こしていた。それがこの『スナッフ』である。「映画撮影中に主演女優が殺された」という凄まじい触れ込みのこの映画は、全米各地で上映反対運動の憂き目に遭い、しかし、それが宣伝効果をもたらして大ヒットしていた。

『スナッフ』は、もともとは『スローター』というタイトルの映画だった。74年にアメリカのモナークという映画会社がマイケル&ロバータ・フィンドレイの夫婦に製作を依頼したもので、マンソン・ファミリーのようなカルト集団による犯罪を描いたソフトコア・ポルノだった。しかし、その出来は惨澹たるもので、とても上映できるような代物ではなかった。モナーク社はお蔵入りを決定、映画は長らく倉庫に眠ることとなった。
 ところが、折しもアメリカではマフィアが撮った本物の殺人映画(=スナッフ・ムービー)が闇で取り引きされているとの噂が流れ、ニューヨーク・タイムズ等でも報道された。その記事を見てひらめいたモナーク社の社長アラン・シャックルトンは、ニューヨークの安アパートで4分間の殺人シーンを撮影、倉庫に眠っていた『スローター』の巻末に付け加えた。タイトルも『スナッフ』と変更。今話題の殺人映画はこれでございと云わんばかりに、スタッフやキャストのクレジットを外して上映した。それだけではない。シャックルトンは自ら上映反対運動を展開。話題が話題を呼んで『スナッフ』は大ヒットとなった。


 我が国でも『グレートハンティング』の直後だったので『スナッフ』は大いに話題になった。ワイドショーが取り上げ、「週刊読売」等まともな雑誌までもその真偽を議論した。
 私はだいぶ後にビデオで見た。成人指定だったので、当時小学生の私は見ることができなかったのである。見て驚いた。なんとつまらない映画であることか。ストーリーなどはないに等しく、とにかく退屈で退屈で、1時間20分が何時間にも感じられた。
 やがて「カット!」の声と共に撮影が終わり、監督が主演女優(といっても、今までの人とは明らかに別人)に近づき、「いやあ、君のおかげでいい映画ができたよ」などとおだてながら、ペッティングを始める。と、やおらにナイフを彼女の背中に突き立てる監督。ギャッと苦しむ彼女の指をハサミでチョン切り、腹をかっ捌いてはらわたをえぐり出す。はらわたを両手で掴み、狂気の笑顔で血に見とれる監督のアップで『スナッフ』はブチッと終わる。
 はっきり云って、特殊メイクは相当稚拙なものであった。誰が見ても作り物であることは一目瞭然だ。それが何故、あんなにも話題になったのか?。
 配給会社のジョイパックが試写を一切行わなかったからである。試写が事前に行われていれば『スナッフ』は我が国ではヒットしなかったかも知れない。


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