血の魔術師
THE WIZARD OF GORE

米 1970年 96分
監督 ハーシェル・ゴードン・ルイス
脚本 アレン・カーン
出演 レイ・セイガー
   ジュディ・クレア
   ウェイン・レイティー


 本作のタイトル「血の魔術師」は、世界に先駆けていくつもの血みどろ映画を世に放ったハーシェル・ゴードン・ルイスの代名詞となっている。ルイスの演出は「手品師」と呼べるほど手際のよいものではなかったが、血のイリュージョンを見せていたという意味で、ルイスの代名詞としてこれほどふさわしいものはない。本作もまた、ルイスの代表作と云える内容になっている。

「何が現実で、虚構であるのか、諸君にはその境界が判らない。しかし、その支配者がこの世にたった一人だけいる。それが私、モンターグなのである」
 魔術師モンターグは今日も舞台に上がり、客席から若い女性のボランティアを呼んで、血祭りに上げていた。ギロチンで首を斬る。口から剣を突き刺す。チェーンソーで胴体を二つに分かつ。はらわたをプレス機で潰す。頭蓋に釘を打ち込む。この過激な手品に興味を抱いたシェリーという女性キャスターが、モンターグに番組への出演を依頼する。ところが、恋人の新聞記者ジャックが奇妙な事に気づく。モンターグのボランティアたちは、その日のうちに舞台と同じ方法で殺されている。
「奴の舞台は手品なんかじゃない。本当に殺しているんだ!」


 ジャックはテレビ局に走るが、モンターグはブラウン管を通じて視聴者を催眠術にかけて、何十万人という人々を一度に殺害しようとしていた。手始めにシェリーを焼き殺そうとしているところにジャックが乱入。間一髪のところでモンターグに体当たりして炎の中に押し込む。断末魔の叫びを上げて灰となるモンターグ。かくして大量殺戮は未然に防がれたのであった。

 さて、これで一件落着に思えたが、この映画は二重、三重のドンデン返しを用意する。
 事件解決の美酒に酔い痴れるシェリーとジャックはペッティングを始める。と、突然、ジャックは仮面を剥ぎ、死んだ筈のモンターグに変身する。そして、シャリーの服を引き裂き、内臓をえぐり出す。ところが、シェリーは血みどろになってなお、笑い声を上げる。
「あんたは自分が現実と虚構の支配者だと云っていたね。だけど、本当は私がその支配者なんだ。あんたは私が作り出した虚構に過ぎないんだよ」
「えっ?。そんな筈はない!。私はモンターグ、現実と虚構の支配者なのだあ!」
 反則技とも思える物凄いドンデン返しに唖然としていると、ルイスはここでとどめの一撃を喰らわす。なんと、物語は一転して、この映画のふりだしに戻ってしまうのだ。
「何が現実で、虚構であるのか、諸君にはその境界が判らない。しかし、その支配者がこの世にたった一人だけいる。それが私、モンターグなのである」
 つまり、今までの物語はすべて、モンターグが作り出した虚構だったのである。

『血の魔術師』は極めて異常な作品である。と同時に、映画の虚構性を描ききったという意味で、ヌーベルバーグ以上に自覚的な作品である。私は初めて観た時、アラン・レネの『去年マリエンバードで』を思い出してしまった。『血の魔術師』にはレネの作品ほどの品格はないが、その質において決して見劣りするものではない。そして、それほどに自覚的な作品をルイス如きがものにすることが出来たこと自体が、本作の異常性を更に高めているのである。


関連人物

ハーシェル・ゴードン・ルイス(HERSCHELL GORDON LEWIS)


 

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