評価 ★★★★★

キートンのセブン・チャンス(キートンの栃麺棒)
SEVEN CHANCES

米 1925年 60分
監督 バスター・キートン
出演 バスター・キートン
   ロイ・バーンズ
   スニッツ・エドワーズ
   ルス・ドワイヤー
   ジーン・アーサー


『海底王キートン』の大成功にもかかわらず、キートンは興行的にはロイド、チャップリンに続いて3番手だった。そこで、より多くの収益を望むジョー・スケンクは、キートンにロイド作品のような原作を買い与えた。それが『セブン・チャンス』である。

 若い頭取の主人公は経営に失敗して破産寸前。そんな彼に吉報が舞い込む。700万ドルにも及ぶ祖父の遺産を相続できるかも知れないのだ。但し、条件は「27歳の誕生日、午後7時までに結婚すること」。なんと期日は今日だ。かくして主人公は7人の花嫁候補に求婚しまくるハメになる。

 諸君は御案内かと思うが、ハロルド・ロイドの作品は基本的に「都会の軽薄な若者が困難に立ち向かい、悲惨な目に遭いながらも最後には成功する」という物語だ。それは
アメリカン・スピリットの具現化であり、だからこそチャップリンのペーソスよりも当時の大衆に支持されたのである。そして、そのような物語をスケンクはキートンに押しつけたのだ。妻のナタリーのために出費が嵩むキートンを思ってのことなのだろうが、スケンクは商売人だが映画に関してはド素人だ。キートンとロイドではキャラクターが違う。ロイドのようなヤング・エグゼクティブになれる筈がない。キートンは考え込んでしまった。

「それは酷い映画で、スタッフにもそのことは判っていた。まったくお手上げの状態だった」

 そんな不毛の作品を救ったのは、まったくの偶然だった。

「花嫁募集の広告で集まってきた女性の大群から逃げるという短い場面があってね。私は彼女たちを野外に連れ出して、追い掛けっこの撮影を始めた。
 丘の斜面を駆け下りている時だった。丘には石がいくつもあって、私はその一つに偶然にぶつかってしまったんだ。それが転がり出して、別の二つの石にぶつかった。後ろを振り返ると、さっきの三つの石が転がり落ちてくる。ボーリングのボールぐらいのが三つ、私の方に向かってくるんだ。必死に走って逃げるしかなかった」

 このシーンを或る試写で上映したところ、客席は爆笑の渦。
 これだ!。これでこの作品が救える!。
 かくして大小合わせて1500個もの石がキートンを追い掛ける、あの超現実的なシーンが実現されたのである。

 キートンは評論家に褒められることよりも、金を稼ぐことよりも、何よりもまず笑いを優先した。何故なら彼はコメディアンだからだ。チャップリンのような芸術家じゃない。笑えないコメディを作ることは、彼には我慢できなかったのである。


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