フェイスレス
FACELESS
LES PREDATEURS DE LA NUIT

仏 1988年 100分
監督 ジェス・フランコ
出演 ヘルムート・バーガー
   ブリジット・ラーエ
   キャロライン・マンロー
   ステファーヌ・オードラン
   クリス・ミッチャム
   テリー・サバラス


「最低映画の写真で一言」第30回の出題元である。

「はたして、今回のお題の映画を館長殿は見ていらっしゃるのでしょうか?」(tobboさんの一言)
 今回は見ていたのだ。

 本作は、ポスターから一目瞭然かと思うが、『顔のない眼』に代表される「誘拐してきて皮を剥ぐ」ものの1本である。監督のジェス・フランコは以前に類似作『美女の皮をはぐ男』を撮っており、本作はそのリメイクといった趣きだ。フランコの作風の変遷に従い、よりエロチックに、より倒錯的に仕上がっている。

 ヘルムート・バーガー扮する整形外科医は、妹との近親相姦に助手のナタリーを交えた不埒な3P享楽の日々を送っていた。ところが、手術に失敗したオバハンの腹いせ硫酸攻撃で、愛する妹の顔が犬神助清になっちまう。そこで、かつての患者のリストから上物だけをチョイスして、せっせと誘拐しまくる二人組。メンゲル博士の同僚だったというナチスの戦犯博士をスカウトしてきて、悪魔の生体実験を繰り広げる。
 誘拐された女の中にはキャロライン・マンローもいて、その親父がなんとテリー・サバラスというのだから、なんとも濃い親子である。元マフィアのこの親父は、私立探偵クリス・ミッチャムに捜査させるが、結局、クリスも捕われの身となって、キャロラインと共に生き埋め。真相を知ったサバラス親父が現場へと向かうショットでブチッと切れて、宙ぶらりんのまま映画は終わる。


 80年代のフランコ作品にしては上々の出来映えではあるが、それはあくまで「当社比」の話であって、他社と比べられたらダメダメなのは歴然だ。例えば、冒頭の硫酸攻撃のシーン。どう見ても顔にかかっていないんだよ。左手にかかったのを「キャーッ」とか云いながら自分で顔に塗りたくっているとしか見えないのだ。ま、早撮りで有名なフランコ御大のことだから、撮り直すなんてことは夢にも考えていないんでしょうな。

 しかし、スプラッター映画全盛期に作られただけあって、そちらの方は無意味に過激で、なかなか楽しませてくれる。秘密を知った患者の眼に注射器を突き刺す。秘密を知った看護婦にドリルをお見舞いする。皮剥ぎに失敗した顔をメチャクチャにする。その首を生きたままチェーンソーでぶった斬る等々。
 中でも出色なのが、剥いだ顔面をその持ち主に見せつけるシーン(上写真)。なんでも、元ナチスの博士によれば「恐怖心が皮膚を引き締める」のだそうで、局所麻酔のみで剥ぐのがベストとのこと。だから、剥がれた女には意識があるし、剥がれた顔もよく見えるのである。なんとも悪趣味な設定である。

 更に加えて、フランコならではの倒錯性が堪能できるのも見どころの一つ。おいたをした下男に罰として妹の「恋の奴隷」を命じ、女王様プレイに興じる妹をモニターで覗き見る兄。そのフェラチオをする助手。近親相姦、レズにSM、レイプに窃視、屍姦等々、倒錯愛の見本市である。

 で、「一言」第30回の写真はどんなシーンかというと、サカリのついた妹のために街で男を拾ってきて「仮面プレイ」をさせるが、男が仮面を取ってしまって「ギャーッ」。そこへ助手が現れて「見ちゃダメだと云ったじゃないッ」とぬっ殺すという「鶴の恩返し」のようなシーンだったのである。

 なお、本作にはフランコのファンには堪えられないシーンがある。ナチスの博士をヘルムート・バーガーに紹介するオルロフ博士のシーン。まず、オルロフという名前に「おっ!」と小躍り。『美女の皮をはぐ男』を始めフランコ作品にたびたび登場する人物だ。その博士が「私の最高傑作だ」と見せた写真が、なんと、フランコの伴侶リナ・ロメイ。御大、さりげなくノロケちゃっているのである。


関連人物

ジェス・フランコ(JESS FRANCO)


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