シュラム
SCHRAMM

独 1993年 67分
監督 ユルグ・ブットゲライト
出演 フローリアン・ユエルナー
   モニカ・M


『ネクロマンティック』で悪名高きユルグ・ブットゲライトの、今のところの最新作である。
 タイトルの「シュラム」は「しまった!」の意であるらしい。
 或る連続殺人鬼が血みどろの壁を塗装中に、梯子から足を踏み外してしまう。
「しまった!」
 頭から落ちて絶命する前に、彼の脳裏には己れの生涯が走馬灯の如く蘇る。その僅か数秒の現象を映画化したのが本作なのである。

 主人公は「口紅殺人鬼」の通り名で世間から恐れられている存在である。しかし、その実は短小包茎の小男で、そのコンプレクスから生身の女性を相手にすることが出来ない。ひとまず殺害し、無抵抗にしてから口紅を施し、そして、屍姦するのだ。
 彼が暮らすアパートの隣には売春婦が住んでいる。その情事は筒抜けで、彼はそれに聞き耳を立てて、ダッチワイフ相手に射精する。その人口膣を風呂場でひとり洗い流す彼の姿は、おそらく映画史上最も惨めなシーンであろう。


 孤独のうちにテンパって行く彼は、様々な幻覚に悩まされる。朝、起きれば右足が切断されている。歯医者に行けば目玉を穿られる。鏡を見れば額が割れて脳ミソがはみ出る。股間がムズムズするので布団を剥ぐと、ヴァギナ状の奇妙な生物がチンポコを狙っている(左写真)。極限状態に達した彼は、遂に己れのチンポコに釘を打ち込む。
 痛たたたたたたた。これは痛い。痛すぎる。
 おそらく映画史上最も痛いシーンであろう。
 そんなこんなでいろいろとあって、どうにか隣の売春婦と友達になり、自室へと誘い込む主人公。しかし、やはり手を出すことが出来ない。睡眠薬で眠らせて、その前でオナニーするのだ。情けないにもほどがある。相手は堅気のおぼこ娘じゃないよ。商売女だぜ。素直に「買えよッ」と画面に向かって怒鳴ったのは私だけではない筈だ。
 そんな惨めな男の孤独な生と死に直面する67分。その孤独感、悲壮感は観る者の心を強烈に揺さぶる。ブットゲライトは確実に作家としての腕を上げているが、チンポコに釘を打ったりするものだから、またしても上映禁止処分となるのであった。

 なお、本作のビデオにはメイキングが収録されており、これがまた実に和気藹々としていて楽しそうだ。とても上映禁止処分を喰らった映画の現場とは思えない。これを見て「イメージを壊された」と怒るか、それとも「安心した」と喜ぶかは人それぞれであろう。(ちなみに、私は「安心した」派である。こんな映画、真剣に黙々と作られては堪らない)。


関連作品

ネクロマンティック(NEKROMANTIK)
死の王(DER TODES KING)


 

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