マイラ
MYRA BRECKINRIDGE

米 1970年 95分
監督 マイケル・サーン
原作 ゴア・ヴィダル
出演 ラクウェル・ウェルチ
   ジョン・ヒューストン
   メイ・ウエスト
   レックス・リード
   ファラ・フォーセット
   ジョン・キャラダイン


『恐竜100万年』でラクウェル・ウェルチの虜となった私にとっては長年に渡る憧れの1本。なにしろウェルチが性転換者を演じるセックス・コメディってんだから、ポテンツの上昇は避けられない。
 ところが、本作はどうしたことか、妙に冷遇されていて、我が国ではいまだにビデオ化されていないばかりか、海の向こうでもビデオを入手するのが困難な状況。数年前、12チャンネルの深夜に放映されて、ようやく観ることが出来た。
 なるほど。本作が冷遇される理由がよ〜く判った。

 監督のマイケル・サーンは当時27歳。『ジョアンナ』で注目された大英帝国の新鋭だ。その彼がハリウッドに招かれて、ゲイ作家ゴア・ヴィダルのベストセラーを映画化したのが本作なのであるが、サーンはちょっとやり過ぎた。「オールド・ハリウッド」を罵倒し過ぎてしまったのである。


 映画評論家のマイロンはゲイだった。(演じるのは本当にゲイの映画評論家レックス・リード)。彼は性転換手術を受けてマイラとして生まれ変わり、ハリウッドに繰り出して、旧体制然とした性モラルを翻弄するのであった。
 これだけでも十分に扇情的な内容なのに、サーンは更に駄目押しをした。随所に往年のハリウッド映画をちりばめたのだ。シャーリー・テンプルが、クラーク・ゲーブルが、そしてローレル&ハーディまでもが「性モラルの翻弄」に加担させられた。極めつけは、マイラが腰に張り形をつけてマッチョマンの肛門処女を奪うシーン(左写真)。壁に飾られた錚々たる顔ぶれのハリウッド・スターたちが「観客」として描かれているのだ。
「オールド・ハリウッド」を知る者にとっては、屈辱以外のなにものでもない。かくして本作はハリウッドのジジイたちの逆鱗を買い、X指定を受けて興業的に大惨敗に終わった。今日でも本作はなかったことになっている。


 そんなわけで、とても不遇な作品なのであるが、今日再上映されれば必ずカルトになることであろう。サーンの演出はとにかく斬新で、本当に才能のあった人なのだと思う。(斬新すぎて、当時の人にはよく判らなかったかも知れない)。ハリウッドを追放された彼が以後、まともな作品を撮っていないことは、まことに残念である。
 ただ、噂ではサーンもゲイだそうで、そう云われれば、主演にラクウェル・ウェルチを配していながら、彼女のセクシー・ショットは追わずに、マッチョマンのケツばかりを追いかけている。その点が私的には大いに減点である。

 なお、本作は傍役が異常に充実しており、その点ではポイントが高い。
 まず、煙草をくわえながらマイロンのチンポコを切断する医師に、気狂い博士ならこの人のジョン・キャラダイン。
 マイラの叔父で、俳優養成学校の校長にジョン・ヒューストン。本業は監督だが、この頃は俳優としてもひっぱりだこだった。
 そして、マイラのレズのお相手には駆け出し時代のファラ・フォーセット。この数年後に『チャーリーズ・エンジェル』でブレイクし、ウェルチに取って替わってピンナップ女優ナンバー1の地位につくかと思うと、感慨深いものがある。
 更に感慨深いのは、あのメイ・ウエストのカムバックである(左写真上)。30年代のアメリカで露骨なセックスを売り物にし、世間の顰蹙を買っていた「元祖黒木香」は当時78歳。実に二十数年ぶりの映画出演であるが、ここでも彼女は「セックス・モンスター」に扮し、若いツバメを喰いまくる。
 そのツバメの一人が、これが映画デビューのトム・セレック(左写真下)。口鬚はないけど、たいそうな二枚目である。


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