さよならジュピター
BYE-BYE, JUPITER

東宝 1984年 130分
製作 田中友幸、
   小松左京
脚本 小松左京
監督 橋本幸治
出演 三浦友和
   森繁久彌
   平田昭彦
   小野みゆき
   岡田真澄
   マーク・パンソナ


 この映画を初めて観た時、私は赤塚不二夫のこんなエピソードを思い出した。
 書き下ろしの長篇漫画に行き詰まった赤塚は、トキワ荘の兄貴分、寺田ヒロオに相談した。寺田は赤塚の原稿を読んで、こう云った。
「詰め込み過ぎだよ。僕ならこの原稿から5つのマンガを作るな」。
 私もこの映画を観ながら、こう思った。
「詰め込み過ぎだよ。僕ならこの原作から5つの映画を作るな」。
 しかし、この映画の脚本家は製作者でもあるものだから始末が悪い。先の例で云えば、赤塚不二夫が出版者の社長だったのである。寺田ヒロオのアドバイスは聞き入れられずに出版された。それが『さよならジュピター』である。

 物語は複雑怪奇で説明に窮するが、要するに、火星で「ナスカの地上絵」が発見される宇宙古代史物語と、木星を太陽化して宇宙ステーションのエネルギー源にしようとする宇宙開拓物語と、全長120キロに及ぶ「ジュピター・ゴースト」の謎を追う宇宙神秘物語と、巨大なブラックホールが太陽系を直撃する宇宙パニック物語とが複雑に絡み合い、これに「ロミオとジュリエット」が加わる、という分裂症気味の内容である。

 失笑を誘うのは、特に「ロミオとジュリエット」の部分である。
「木星太陽化計画」を推進する三浦友和博士はジュピター教団なる反対分子の妨害工作に悩まされていた。今日もその抗議デモに遭い、機械の一部を壊された。連中の首謀者はチューリップ・ハットを被った怪しげな女。帽子を取ると、なんと幼馴染みのマリアではないか。
「会いたかったわ」
「俺も会いたかったさ」
 すぐさまSEXする二人。しかし、幼馴染みが十数年ぶりに出会って、すぐさまSEXするかね?。
 で、この映画唯一の売りの無重力SEXシーンにあいなるわけであるが、そのセコい特撮から生ずる脱力感はただごとではない。


 ところで、このジュピター教団、どういう団体かというと、要するに単なるヒッピーなのである。自然主義者であり、人為に基づく宇宙の変革の一切を認めない。教祖はピーターという歌手で、これがまたハナ肇の「アッと驚くタメゴロー」みたいなベタな風体。
 とても80年代の映画とは思えない。
 で、このタメゴローの愛するイルカ「ジュピター」がサメに喰われて、涙ながらに一曲歌う。

「君はとても大きくて、
 いつも、いつも、輝いていた。
 君はとても優しくて、
 いつも、いつも、微笑んでいた」

 作詞は本作の製作者にして原作脚本担当者、つまり最高責任者である小松左京御本人。恥ずかしいなあ。恥ずかしいけど、アマノジャクな私はこの歌が大好きだ。

 で、地球をブラックホールから守ろうとするロミオ=三浦友和と、木星を守ろうとするジュリエット=マリアが、ジュピター教団のテロが相次ぐ中で共に討ち死に。宇宙の藻屑と消えて、観客が釈然としないままに映画は終わる。


BACK