花嫁吸血魔
HANAYOME-KYUKETSUMA

新東宝 1960年 80分
製作 大蔵貢
監督 並木鏡太郎
出演 池内淳子
   三田泰子
   寺島辰夫
   五月藤江


 或る映画のヒロインに抜擢された主人公、嫉妬にかられた女優仲間に崖から突き落とされ、顔面に見るも無惨な傷を負う。女優としての再起は不能で、失意のうちに実家に帰るが、そこでも母が借金苦で自殺していた。度重なる不幸に落胆した彼女も自害。しかし、陰陽師のババアの余計なお世話で、彼女は「花嫁吸血魔」として蘇り、崖から落とした連中の新婚初夜を襲うのであった.....。

 という、とりわけて取り柄のないC級ゲテモノ映画であるが、この映画がカルト化しているのにはわけがある。「花嫁吸血魔」を演じるのが池内淳子だからである。
 後の大物俳優が無名時代にトンデモない映画に出ていた、なんてのはよくある話だ。しかし、当時の池内淳子は既に中堅で、テレビドラマにも出演し、好評を博していた人気女優だ。そんな彼女がどうしてこんなゲテモノに出たかというと、これには深いわけがある。

 三越の評判美人店員から新東宝に入社、女優へと転身した池内淳子は、お嬢様役の清純派として堅実に成長していった。ところが、女優としてこれからという時に、社長である大蔵貢の忠告を無視して結婚引退。そして、大方の予想通りにすぐに離婚。社長を拝み倒して、復帰第1作としてもらった役がこれだったのである。
 清純派の池内がやるにはあんまりな役で、巷では大蔵の嫌がらせではないかと噂された。
 しかし、山田誠二著『
幻の怪談映画を追って』所収、小林悟監督へのインタビューによれば、真実はこういうことらしい。
「本当に嫌がらせするなら、映画に出さないで、飼い殺しみたいにして、逆に仕事を全然させなかったでしょう」。
 たしかに、その通りだ。
「あの頃は池内さんに限らず、他の女優さんも脱いだり、お化けやらされてますから」。
 つまり、大蔵社長の真意は「汚れ役でもなんでもやるぐらいの決意があるなら、復帰を認めてやる」ということだったのだろう。女優としての「やる気」を確かめたのだ。それに応えた池内は、毛むくじゃらのドルゲのような怪物(どうもコウモリの怪物らしい)を自ら演じて「やる気」を証明してみせた。
 しかし、新東宝は翌年に倒産してしまうので、池内の熱演はあまり意味がなかったような気もする。

 ところで、本作には『狼男アメリカン』もびっくりな「ワンカット変身」のシーンがある。苦しみもがく池内の顔がみるみるとドス黒く変色していくのだ。これは思うに、黒インキのスプレーを顔に吹き掛けているのだろう。文字通りの汚れ役だ。このシーンの池内は、物凄く嫌そうな顔をしている。


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