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 『サスペリア』でお馴染みのダリオ・アルジェントのデビュー作である。ついつい見そびれてしまっていて、先日初めて見たのだが、なんだこりゃ?。『サスペリア2』と同じじゃないかッ。 
 映画プロデューサーの家に生まれたアルジェントは、まず脚本家としてキャリアを始めた。そして、本作の脚本の出来が余りにもよかったために、父の勧めで監督も兼任した、との逸話が残っている。 
 父の予想通り、本作は本国で大ヒットした。そして、監督として堅実にキャリアを積む中で、アルジェントはこう思ったのだろう。 
「デビュー作をやり直したい」 
 それほどに本作には穴があり過ぎる。その穴を埋めて完成させたのが『サスペリア2』だったのだと思われる。 
 まず、本作と『サスペリア2』の類似点を列挙してみよう。 
1.イタリアにやってきたアメリカ人が殺人現場を目撃する。 
2.彼はその事件の捜査を始める。 
3.彼は殺人現場で見た「何か」を忘れてしまった。 
4.事件には或る絵が重要な役割を占める。 
5.彼は犯人に命を狙われる。 
 本作の最大の穴は3の部分である。 
『サスペリア2』では、それは「殺人現場にあった筈の絵」だった。主人公は後に、現場にあった筈の絵を思い出す。不気味な顔が描かれた絵だったが、それは実は鏡だった。主人公が絵だと思ったのは、鏡に映し出された犯人の顔だったのだ、ってなオチがつく。 
 なかなか秀逸なアイデアである。 
 しかるに、本作で主人公が忘れていたのは「誰が凶器を持っていたか」であった。そして、最後になって被害者が凶器を持っていたことを思い出す。つまり、被害者が実は犯人だったのである。 
 そんなバカなッ。 
 バカボンのパパじゃないけど、そんなこと、忘れようとしても思い出せないのだ。 
 否。忘れようとしても忘れられない。 
 おそらくアルジェントは、この点を是非ともやり直したかったのだろう。それで改良された『サスペリア2』は、名実共に彼の代表作となった。だから、アルジェントにとっては、本作はなかったことにして欲しい作品なのかも知れない。 
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