デヴィッド・バーンのフィルム《トゥルー・ストーリーズ》は「タブロイド」に捧げられたオマージュである。

「タブロイド」とはインチキ新聞のことである。通常の新聞の半分のサイズをタブロイド判と云うが、このサイズの新聞には胡散臭い三流紙が多い。そのため、この手のインチキ新聞の総称を「タブロイド」と呼ぶようになったのである。判りやすく云うならば、我が国の「東スポ」がまさにこの「タブロイド」である。「人面魚」や「人面蜘蛛」、それから芸能スキャンダル、「宮沢りえ、自殺 か?」などと「か?」の字が小さく印刷してある新聞が、すなわち「タブロイド」なのである。
「東スポ」を信じる人はまさかいないと思うが、あちらでも「タブロイド」を信じる人は皆無である。嘘だと知って、その奇想天外なホラを楽しんでいる。これが「タブロイド」の、そして「東スポ」の正しい読み方である。しかし、こうした習慣が身についたのはそう遠い昔のことではない。近年までは多くの者が「タブロイド」に騙され、そしてパニックを引き起こしていたのである。



1. ウィンステッドの大ボラ吹き

 まずは軽いホラ吹き男の話から始めよう。
 20世紀初頭に活躍したコネチカット州ウィンステッドのジャーナリスト、ルイス・ストーンは「タブロイドの父」とでも云うべき人物であった。借金の返済を迫られた彼は、やむなくスクープをでっち上げた。これがバカ受けし、ストーンは以後、奇想天外な「トゥルー・ストーリーズ」をニューヨークの大新聞に送り続けた。例えば、
「焼きリンゴのなる木」。
「独立記念日に赤白青三色の卵を産んだ雌鶏」。
「聾唖の豚」。
「運賃代わりに卵を産んでいった鴨」。
「わさび大根の畑で放牧され、辛いミルクを出した乳牛」。
「口笛を吹く三つ口の猫」。
「蝿を寄せつけないように頭に蜘蛛の絵を描いた男」等々。
ストーンはたちまち「ウィンステッドの大ボラ吹き」の異名とともに全米の人気者となった。1933年に世を去ると、ウィンステッドの入り口にはこんな標識が立てられた。

「1779年に誕生したウィンステッドは、この街に実在するとされた奇想天外な物語のおかげで地図に記載されるに至った。これはひとえにウィンステッドの大ボラ吹き、ルイス・ストーンの賜物である」。

 こんな楽しい嘘なら大歓迎といったところであろうか。