ファンタズム
PHANTASM

米 1979年 89分
監督 ドン・コスカレリ
脚本 ドン・コスカレリ
出演 マイケル・ボールドウィン
   ビル・ソーンベリー
   レジー・バニスター
   アンガス・スクリム


 この映画、何度観てもストーリーを人に説明できない。忘れてしまうのだよ。脈絡がなく、まるで夢を見ているようである。実際に、コスカレリ監督の見た夢をそのまま映画化したものなのだそうだ。つまり、これはアメリカン『ねじ式』なのであり、脈絡がないのも当然なのだ。

 両親に先立たれたマイク少年は、或る日、背の高い不気味な葬儀屋(通称トールマン)が、重い棺をさも軽そうに片手で抱えて霊柩車にしまい込むのを目撃する。その棺は埋葬される筈のものだったことから不審に思ったマイク少年は、好奇心から霊園へと忍び込む。そこで彼が見たものは、奇妙な小人の群れ(どうやら死者が蘇ったものらしい)と、トールマンの手から放たれる殺人ボールであった。
 この殺人ボールが極めてユニークだ。空中をものすごい早さで飛び回り、シャキンとドリルを出したかと思うと、獲物の脳天に喰らいつき、ガリガリガリと穴をあけて脳ミソを吸い出してしまうのである。この描写だけで100点満点であり、残りのマイク少年とトールマンの攻防戦は別にどうでもよい。(それほど面白いものではない)


 ところで、本作が日本で公開された時には「ビジュラマ方式」という「驚異の超立体音響システム」で上映された。配給の東宝東和には単なる4チャンネル・ステレオを『サスペリア』の時に「サーカム・サウンド」と呼んだり『猛獣大脱走』の時に「ロアリング360」と呼んだりした前科があるので、「ビジュラマ方式」も4チャンネル・ステレオのことだと思っていた。ところが、『映画秘宝・Vol.11』所収の東宝東和宣伝部インタビューによれば、なんとウィリアム・キャッスルのようなギミックを考えていたのだという。

「映画の中盤で、変な頭巾の奴が飛び出してくるシーンがあるんだ。で、そのシーンになったら、ウチの宣伝部員が頭巾被ってスクリーンの脇から飛び出してステージを横切ったんだ。これがビジュラマなんだよ。
 でも、出るタイミングが難しかったね。最初のうちは客が笑っちゃうんだよね。先に出てしまって、オイ、なんだいって(笑)。でも、慣れてきたら受けたなあ。
 本当はね、場内にロープ張ってミラーボールも飛ばしたかったんだよ。制作費の問題と、どの劇場からもOKが出なくて出来なかった。あの時はみんなで当たったんだけど、ダメだったね」

 東宝東和の興業にかける情熱に頭が下がるエピソードだ。だけど、俺、この映画をロードショーで観たけど、頭巾の奴なんか飛び出してこなかったぞ。


「ところが、映画館側の消防法とかの関係で問題になって。万が一事故でも起こったらって。それで、ビジュラマは結局出来なかったんだよ。だから、試写会に行った人だけがビジュラマ方式を体験しているわけ」

 なるほど、そういうわけですか。

「この間『スクリーム2』観たらさ、俺たちが考えていたことマネしやがったなって思ってさ。あれはビジュラマだよ!。劇中で殺人シーンがあったら、実際にスクリーンの前で人を殺す.....。もし、あの時、実際にやってたら世界初のビジュラマ映画館だったんだ。『スクリーム2』に対して、日本ではもっと昔にそういうことをやってたって言えたのになあ」

 ところで、肝心の本編であるが、9年後に続編が作られたのを皮切りに、今では4本も作られて、現在、5本目が製作中だという。しかし、どれもこれも殺人ボールがギュイーンと追っかけてくる同じような映画ばかりで、よっぽど「ビジュラマ方式」をやってる方が実りがあるってえもんだ。


関連作品

ファンタズムII(PHANTASM II)
ファンタズムIII(PHANTASM III)
ファンタズムIV(PHANTASM IV)


 

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